恋愛小説 ハロウィンの悪夢 4 R15
第四話 トリック or トリート
あずさは今までこれほど自分が
“流され易い”
とは思っていなかった。
ついでにハンサムな男って得だよなって。もしこれで相手が不細工な男だったら明らかに犯罪だけど、この場合
“立証”
ってのが無茶苦茶難しいって、いくら男が嫌いなあずさでも分かってた。彼は間違いなく格好良い。身長高くって、虫歯も無くて(これは凄いと本心から褒めていた)デブじゃない。よいうより、スタイルグッド。部屋の趣味も良いし、たぶんそこそこお金持ち。しかも手段はえげつないけど、
「寒くない?」
って夕闇の中を引き寄せられ、布団掛けられたりして。基本的に優しいし。
「何で私だったの?正直に答えてよ。」
胸の中がもやもやしていた。
「ん〜。」
彼は少し考え込む様にしてから
「正直に話すから、あずさにも1つお願いがある。それでも良い?」
それはそれは真剣な目つきで言った。
「毒を食らわば皿までよ。」
きっと睨みつけられ、彼はにいっと笑った。
「以前から君の事、知ってたから。」
「へっ?」
何となく心当たりは有るだけに、あずさは目に見えてむっとした。
「あぁ、そう言う事ね。」
「そう、そう言う事。」
彼は鼻歌まじりで彼女の髪を撫で始めた。
彼女の苗字は
“白玉”
と書く。白玉団子の
“白玉”
で、
“白玉あすざ”
超目立つ。もちろん幼い頃のあだ名は
“白玉小豆”
その上父親がそれなりに有名な会社の会長をしていたから、超・超有名で、それ狙いの男ってのは多かった。
『だから男は嫌い。』
彼女は心で呟いた。
『そんなに逆タマ狙うんだったら、私の父親と結婚しろっうーの。』
この時、矛盾は一切無視である。ここはカリフォルニアでもなければオレゴンでもない。日本の法律は
“異性婚”
そんなあずさの心中を彼は見て見ぬ振りをする。
「最初君を見かけたのは、会長の机の上でね。家族三人の仲のいい風景だった。」
そのデスクの有様を想像し、彼女は
『偽善者めっ!』
って思った。何しろその父親は母が死ぬ時も仕事で忙しく、見舞いにすら来やしなかったじゃないか、と。
「で会長が時々嘆くんだよ、
“娘がね。”
って。」
『そりゃどういう事だい!』
むかっときたあずさは振り向いて睨んでやろうとするのだが、如何せん、むぎゅって抱きしめられて身動きが取れず。
「“娘に理解してもらえない事がこの世で二番目に悲しい”
ってね。で興味がわいたんだよね。あの有能な会長を悩ませる性悪な娘って、どれほど凄いんだろうって。」
それから猫の様にゴロゴロと喉を鳴らし
「美術展で初めて見かけた時はびっくりしたよ。でも興味は有ったから探り、入れちゃった。どうせだったら遊んでやろうかって。」
『もうすでに遊ばれてるよ!』
心の叫びは彼には届かない。それどころか、彼は追い打ち。それはそれは甘い声で
「でも話してみてびっくりさ。もう僕の好み、ドンピシャ!想像していた君とはまるで違う、食べちゃいたい位凄く可愛い子猫ちゃんだった。」
とのたまった。あずさ、失神寸前。
「じゃぁ、次、君が僕の望みをきく番ね。」
いや、望を聞くなんて言ってないしって反論が遅れ
「はい、選んで。」
彼は用意していた二つの箱を取り出した。両方真っ白。でも大きさが違う。
「なによこれ。」
「だから、君が選んで。」
腑に落ちないから
「う〜」
ってな感じで睨んでいると
「怒った顔も可愛いよ。」
彼はにこって笑ってみせて
「どっちかには僕の精一杯の気持ちを込めたプレゼントが入ってるから。これは運だって思ってさ。僕もこれで覚悟決めようかと思ってるから。」
文系の彼女は字面を直訳する。つまり
“プレゼントの方を選ばなかったら私につきまとうのはヤメるって事だよね?”
憶測は危険だと言う事を彼女は知らない。
「じゃぁ・・・・。」
あずさの頭の中で舌切り雀が言いました。
『小さい箱を選ぶんですよ。』
舌の無い雀がどうやってしゃべったの?っていう小学生レベルの突っ込みも今のあずさには浮かばない。
「こっち。」
小さいのを選ぶ。
「ありがとう。」
ハートマークの飛んだ彼の返事に
“外した!”
彼女は直感した。
「あっ、駄目。こっち!!」
そして指差すは大きなお箱。
「こっちにする。」
そして取り上げ、口元をぎゅっと引き結んだ蒼ざめる彼の顔に
“にやり”
と笑った。そう、男なんかいらない。いくら格好よくても、好みのタイプでも、経済力が有っておしゃれでも。一緒になって苦労するのは女だから・・・・。
「本当にそっちで良いの?」
彼の声は静か。その沈んだ声に
「絶対こっち!」
そう答え、さくっと箱を開けてしまった。昔話には深い教訓が有ると言う事を身をもって知るハメになるとは露思わずに。
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by hirose_na | 2008-11-04 14:43 | 恋愛小説