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恋愛小説 ハロウィンの悪夢 2 R15

第二話 ハロウィンナイト

“やけくそ”
と言うのはこの時の彼女の為に有ると言っても過言ではなかったはず。



体力で叶うはずが無い。何しろあずさはかろうじて155 cm 有るか無いかの身長で、反してかれはまるっと上を見上げでやっと顎を見上げる大きさ。その上妙に口がうまい男だった。そう、口がうまいのだ。
 初めて会ったのは1ヶ月前。マイナーな美術展を見に行ったときの事。
「この絵が気に入りましたか?」
彼はへらへらと声をかけて来た。
「まぁね。」
もちろん関わりたくはないからぶっきらぼうに答えたはずだった。つまり
“うぜっ!あっち行けよ”
である。それなのにこりもせず食いついて、
「僕はこの作家のこの表現が好きなんですよ。」
と来たもんだ。美術を専攻していた彼女としてはどうしても反論したくなり
「ああだ、こうだ」
言ってしまったのが運のツキ。
「あっ、そうだ、じゃぁ来週、ピカソ展に行きましょう。丁度チケット2枚有ったんです。良かった。一緒に行ってくれる人が見つからなくて困ってたんです。ありがとうございました。」
それから
“1階 カフェコキーユ前 10時”
と書いた紙を彼女に押し付け
「必ず待ってますからね。」
と逃げる様に去って行った。
「あっ、イヤ、それは・・・・・」
その日は仕事。それに行く気なんかまるで無い。のに。
「アドレス書いてけよ、あの馬鹿男!」
それが作戦であったのだが。
 仕方ないから律儀な彼女は勤務交代を申し出、行ったのである。挙げ句に
「レストラン予約してしまった。」
その上
「誘ったのは僕だから。」
巨匠ピカソ 愛の創造の軌跡 スペシャルメニュー ハウスワイン付き なるランチまで奢られ
「これ程度の料理じゃ満足してもらえませんよね?今度は夜のコースでもう少し改まったお店を選んで・・・・・。」
もうこれ以上のさばらせる訳にも行かず
「でも今度は私が、お昼に。」

“昼飯だけで十分だ”
と言わざるを得ない所まで追い込まれた。
 それからというもの、ことあるごとにつきまとわれ昨日の夜はついに職場までやって来たのだった。
「はじめまして皆さん。僕は市原直継(いちはらなおつぐ)って言います。あ、いや、あずささんとは真剣にと付き合いさせてもらっているつもりです。」
よりによってドラキュラの扮装、青白いドーラン、のくせに耳だけ真っ赤にしながら彼は頭を下げた。
「お世話になります。」
さて、お世話になるのは誰の事なのか、彼の事なのか、あずさの事なのか、その解釈の微妙なラインに同僚一同騒然となった。
「どこで見つけたの、あんな良い男!」
仮装をしていても良い男は良い男って事で、月2回のコンパを欠かさない友達の真理子がトイレに逃げ込んだ彼女に迫って来た。むっとしながら
「全然良い男じゃないし。」
と反論するものの、そんなのウマの耳になんとやら。
「そんな事聞いてない。どこで見つけたかって事よ!」
勢い負けして
「美術館で拾った・・・・。」
そうかその手があったか!と真理子はガッツポーズ。
「でもその前に、良い男の知り合いは良い男!!良い男、紹介してもらわないと!」
友達なんて名前だけ。真理子は自分の獲物の為にあずさを市原に売り渡した。
「今日彼女、映画館の札きり係で。」
あずさが勤めているのは地区の文化センター。そしてその夜はハロウィンで、オールナイトの映画祭だった。
「その真向かいにラウンジ有りますから良かったらそこで待ってると良いですよ〜。」
と期待に胸膨らませた声で言った。
「あなたの子猫ちゃんの事も見張ってられるし。」
ちなみにあずさのコスプレはキャットウーマン。結構これが人気ありで、周りを写している振りで携帯で写真を撮ってるヤツもしばしば。
「恩にきます。所で、真理子さん、でしたよね?真理子さん、今彼氏います?僕の友人でいいヤツいるんですけど、今度一緒にコンパでもしませんか?あっ、僕はあずさと組みますけど。」
類とも。二人は邪悪な笑顔で笑った。何しろハロウィン。彼、吸血鬼。彼女、魔女。
『ひひひ。』
って笑いが聞こえてきそうな二人組。
 そして年に数度しか無い夜勤明け、毎日12時にはぐっすり寝ているはずのおこちゃまあずさはさくっと
「じゃぁ僕が連れて帰りますね。」
なんて彼の車に押し込まれた。

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by hirose_na | 2008-11-02 14:13 | 恋愛小説