人には言えない! 7
7 障害物競走
ぐったりした彼女は朝までソファの上で丸くなって寝ていた。夜中に俺がかけてやったタオルケットを握りしめながら。
少し酒の残る俺の重い頭。でもそれは異常なほどクリアで。
「伊佐武ちゃんが好き。」
って何回も繰り返す声が耳に残って離れない。
もしかしたら今朝の彼女は昨夜言った事を忘れているかもしれない。でも、それでもいいと思った。
「計画、たてるか。」
そう呟き、自分に発破をかけた。
だってさ、誰が見ても俺、淫行条例引っかかってるし。
例え当人同士が純愛だって主張したって、周りは簡単には納得してなんてくれない。純愛と淫行の線引きなんて。本当は誰にもできやしないんだから。
何よりも彼女にとって俺は事実上の保護だ。親だっていってもいい。それが、手を出したんだ。
そこに有る力関係を無視する事なんか出来ないから。彼女はこの6年間俺に育てられたって言う恩が有る。本当にそれにつけ込んでやしないか。どこかに引け目を感じさせる何かが有ったんじゃないか。それを勘ぐればキリが無い。実際のとこ、俺が一番疑っているんだから。瞳の
“好き”
は、ひな鳥の擦り込みみたいな物じゃないかって。ただ俺は、一番身近にいた男だった、ただそれだけの事だって。
それはとても悲しい事だけど。
でも、もしそうだとしても、彼女の夢が覚めるまで、俺が傍についてやる事は出来るはずだ。その為に。もしかしたらそれは1年で破れる夢なのかもしれないけれど。最善の努力を払う、そんな事を考えた。瞳が本当に大人になるまでの数年間を一緒に過ごす、そんな事を。
まず問題なのが、俺の両親だ。今日の結婚式のごたごたの直後に瞳と一緒になりたいなんて言ったらえらい目に遭うだろう。そこをなんとか納得させないといけなかった。
それから瞳の実父。こいつは瞳が相続した家の相続税を払えなかったほどの甲斐性無しだ。定職にも就かず、ぶらぶらとして。金に意地汚いこの男が出て来たら、訴える等と言い出しかねない。そんなことになったら瞳が傷つく事になる。それだけは避けたかった。
見下ろすふっくらとした丸い顔。童顔ではないけれど、それはまだ少女のものである事も確か。瞳はこれからもっと綺麗になる。その彼女を俺は縛ろうとしている。それがとても残酷な事に思えてならなかった。
首筋に張り付いた長い髪。それを指先で整えてあげると、指先に淡い寝息を感じた。
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by hirose_na | 2008-04-15 21:18 | 恋愛小説