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恋愛小説 ♡ トリート・トリート・トリート 5

5 再会

 その日以来、二人は暗黙の了解で“友達として”距離を置くようになり、たまにお互いを気遣うメールをやり取りするだけの関係になった。しかし色々な意味で痛手を負った七海は、またしてもぐうたら駄目女への道に戻りそうになり、軌道修正しなきゃと思いつつ、だらだらと過ごしていた。だから、また失敗するかもしれないと思いながらも別の美容室に行くことで気持ちを切り替えようと決心したのだった。



 こんな場合、一番最初にお気に入りだったお店に行くべきだって分かってた。そこに行けばきっと失敗はないだろうって。でも七海には、行くに行けない理由があった。そう、まだ未練の残る元彼に再会してまう事が怖かったのだ。だから、同じ系列だけど違お店にやってきたのだった。
 頑張って新しい髪型を選ぼうとし、雑誌のページをめくる七海。どれも素敵だけど、どれも自分に似合わない。そんなことを感じながら
「お任せが一番かな」
呟く。とその時、
「よう、市川」
声をかける男がいた。
「あっ!」
彼の名前は笹川。会社で一番の男前。それから七海の同期入社。
「何、お前も切ってもらうの? ってか、お前の頭、あいかわらずボサだな」
男はにやっと笑い、座りながら彼を見上げる七海の頭に手を伸ばし、一目もはばからずくしゃくしゃと髪の毛をかき回した。おかげで、あれ程完璧に決めてきていたはずの七海のファッションが一気に崩れ、嵐の中を歩いた後かの様に乱れる始末。
「もう、止めてよね」
彼女は男の手を払いながら、彼の存在に嫌な予感を覚えた。そんな彼女の気持ちに男は気づくこと無く
「まぁ、お前も江古田さんに綺麗にしてもらえ」
そう言った。
 悪い予感は的中したのだ。唖然とした七海に、
「何驚いた顔しているんだよ。俺があまりに男前でびっくりしたか?」 
笑いながら彼は振り返り、その後ろからやってきた長身の男の方を見た。そしてそこには忘れもしない、あの懐かしい彼がいた。
 笹川に自分が通っているサロンを紹介したのも七海で、江古田をカットが上手だと勧めたのも七海だった。
「江古田さんが会社の近くに移ってくれて、助かりましたよ」
彼と目が合った瞬間そらしてしまった七海は、雑誌を見るフリでうつむいたまま、レジでにこやかに会計を済ませる二人の姿をそっと盗み見た。 
 彼の姿は変わっていなかった。いや、一年前よりほんの少し痩せ、顔の彫が深くなっている気がした。七海の胸はチクチクと痛んだ。会いたいと思っても、会わせる顔が無く、逃げ出せる口実を考えた。そう、いきなり携帯を見て
『急用が出来ました』
と立ち上がろうかとさえ思った。しかしそれも、この二人に姿を見られる前だったら通用しただろうが、今それをやったら嘘がバレバレで、むしろ行き場がない。
「もし気になる所がございましたら、十日以内でしたら無料でお直しさせてもらいますので、気軽に声かけてください」
馴染みのある、穏やかな声を聞き、七海の中で思い出が蘇る。彼はいつでも優しくて、ドジなスタッフにもキツく当たることがない。そんな大切だった記憶が、幾つも幾つも浮かんで来る。そして思うのだ。
『どうしてあの時。彼の手を放してしまったんだろう』
と。理由は分かっている。大好きな人だから、自分を分かってくれないって感じることが辛くって、愛してくれているならもっと理解を示して欲しいって言う我が侭な気持ちに負けたのだ。そんな自分を、大馬鹿だって思った。だから
「じゃぁな」
帰りがけ、もう一度彼女の頭をかき乱した笹川に
「子供かよ」
顔をしかめて手を振ることで、江古田の方に視線を移すことから逃げた。前のお店では、彼は一番人気でいつでも予約を取りにくかった。だからこの新しいお店でも多分そうだし、ここでおとなしくしていればもう彼とは接触しなくて済む、そう思ったのだ。しかし思惑は外れることになる。
 カウンターの所で予約表を確認し、他のスタッフとひそひそ話をした彼は、ついっと顔をあげ真っ直ぐに七海の所へと足を向けたのだ。
「今日はご指名がないとのことで、僕が担当させて頂きます」
と。
「貴重品はありませんか?」
江古田は本心を見せないごく標準的なお仕事スマイルを浮かべながら、戸惑う七海に手を伸ばしさりげなくバックを受け取り
「今日はカットということで。じゃあ、シャンプー台へ」
まるで二人の間に何の過去もなかったかのように振る舞った。こうなると、他の人の手前彼の後について行くしかない。七海はぎこちない仕草で彼の後を追った。


   戻る  トリート × 3 TOP へ   小説 インディックス   続く♪ 


♬ 読まなくても良いあとがき ♬

ということで。七海ちゃんの元カレは以前通っていた美容室のお兄さんでした♪
まぁ、ベタですね〜〜〜。

次話が最終話になります。
本当は私もこれを書きながら美容室に行く予定でした。そこで
別れてしまったけどよりを戻した元カレ♥にスパコースをお願いし、
あ〜んなことやこ〜んな事や、色々マッサージしてもらって、癒してもらい
このお話の参考にするつもりでしたが、如何せん! 予約が取れんかった!
私の江古田さんはモテ過ぎ! しかも
『いつだったら空いていますけど』
って、引き止めてもくれやしない! う〜ん、これが現実ね。

さっ、暑い日が続きますが、頑張っていきましょう♥

先日、沢山!!!! 拍手をくださった方、ありがとうございました♪
感動しちゃいました。どうもでした!

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by hirose_na | 2010-07-22 09:05 | 恋愛小説