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恋愛小説 ♡ トリート・トリート・トリート 3

3 新彼

「ねぇ、聞いた事ない? “H”の次には“I”が来るんだよ」
彼はベッドで何度も七海の顔を覗き込みながら、ふざけた会話で先を続けた。
「だから僕たちの間にも愛が有るんだって、信じてね、七海ちゃん」
「こうなる運命だったんだから」
「僕たちの関係をHだけで終わらせるなんて事、したくないなって思うんですけど、いかがでしょう?」



そして彼は、七海が恥ずかしくなるほどその目を見つめながら
「この次はH無しのデートしよう」
と言い出した。
「僕さ、今までこんな事、ないんだよ。もう、一目惚れ? だから七海とはきちんとつき合ってみたいって思うんだよね」
甘い顔、甘い声。耳元で聞こえる囁きに、抱きしめる両手。……でも彼女の中には罪悪感が渦巻いていた。
 もしかしたら今彼とは本当に別れるかもしれない、そう思うき持ちはあった。何となく心が離れてしまった気がするから。でも彼ほど好きになった人はいないって事も確か。でも、あの彼の言葉と、あの何とも言えない視線を思い出すと、こうして浮気をしてしまった原因は、結局彼が冷たいからだとも思えて仕方がない。でも結局、彼女は過ちを犯した。だから
「もう、彼の元には戻れない」
彼の顔を見る勇気がなかった。
 その次の日、家に帰った七海はメールを打つ。
『ご免なさい。本当に、本当に仕事が忙しくって、しばらく会えないと思う。ご免なさい』
さすがに
『浮気をしたからご免なさい』
なんて言えなかったから。でもそれは、二人にとって事実上の別れだった。
 そして結局、
『好き』
という決定打はないものの、隆君とつき合い始め、七海は何とはなしに楽しい生活にシフトした。
 新しい彼は気の利く男で、何をするにも七海をお姫様気分にさせてくれた。残業が長引き、息を切らしながら待ち合わせに場所に辿り着いた七海に、
「お疲れさま」
微笑みながら渡される小さくて可愛いブーケ。
「頑張る七海に僕からご褒美」
驚きが覚めやらないまま手を引かれ、レストランへと向かい。それからいちゃいちゃと甘いベットに、彼が作ってくれるスマートなブレックファーストと。
 隆君はちゃらそうな雰囲気とは裏腹に、地方公務員という堅実な仕事につき、残業手当を出さないための定刻退社に
「給料は少ないけどね」
と肩をすくめながら、一度も怒ること無く、七海を喜ばせることに徹していた。それは仕事に忙しく、同じ日に休みを取ることさえままならなかった元カレとは正反対で。
「ありがとう。これからもよろしくね」
七海はそんな彼に相応しいように、お肌の手入れもせっせと行い、新しいメイクを覚え、キレイ目な服をそろえた。かなりムリはしているものの、その度に彼は手放しで七海を褒めてくれるから、
『私は間違ってはいないんだ』
と、自分に言い聞かせながら。
 そんな日々が続く中で、彼女はこれを機に美容室を変えることにした。なにしろ自分の髪に触れる度、この髪を愛してくれた元彼のことが心を過り、どこかで罪悪感が疼くのだ。
「これって駄目だよね」
過去は忘れないといけない。そこで勇気を出して、今まで考えたこともない様な、セレブ御用達の有名アーティストがプロデュースするサロンに行ってみることにした。ロココな感じに豪華なエントランスと胡蝶蘭。素晴らしくメイクの行き届いた女性スタッフがお手本の様な笑顔で笑いかけて来る。
「お客様のリクエストが、より大人の女性にということでしたら、このような髪型はいかがでしょうか?」
ふかふかの椅子に腰掛けながら提案されたのは、毛先にゆるくウェーブのかかった大人可愛い髪型で。
「はい、これで」
七海はまばゆい世界に圧倒されながら、疑いもせずそれを依頼した。
 やがて、ちょっと見習入った感じの人が、スマートだけどどこか慇懃すぎる態度で彼女をシャンプー台に案内してくれた。慣れない椅子に、初めて嗅ぐ香りの顔ガーゼ。
「お湯、かかります」
思ったより生温く、歯がゆい感じの水温に
「不都合があったらおっしゃってください」
そういわれても、
『もっと熱くしてなんて、なかなか言いにくいよね』
七海は思う。
 まだ幼さの残る彼のシャンプーはとても丁寧だった。細い指が、まるで腫れ物に触るかのように優しく、てろてろと頭の上だけを撫でてゆく。
「どこか痒い所はないですか?」
聞かれ、地肌は全然洗ってもらえていないよなって感じながら、有名サロンはきっと地肌を痛めないように気をつけながら洗うんだろうなって独りで納得し
「ありません」
何とはなしに自分を偽る。そして担当の男性は、アーチ型の眉におしゃれな口ひげ。今時って感じのアーティスト風。彼は上手な会話で七海を持ち上げ、いい気分のさせてくれた。これが有名店の実力なんだって、その時は思えた。
 そして出来上がったのは、かなり上々なレディだった。
「相当似合っていますよ」
鏡の向こうからそういわれ、
「ありがとうございます」
その一時、七海は違和感を感じるほど新しくなった自分を喜んだ。美容室を変えて良かったなって。そして当然のことながら、隆君もそんな彼女を褒めてくれた。
「素敵だよ」
と。しかし問題はその後に有ったのだ。
 新しい髪型は、自分で作ろうと思っても決まらないのだ。朝早く起き、シャンプーして、トリートメントで落ち着かせ、半乾きの状態でホットカーラーを使い。それでも一番最初の仕上がりと違う。そんな無駄な労力の積み重ねにイライラしながら
『女子は誰だって綺麗になるために努力しているんだから、これ程度のことやらないなんて、怠慢だよ』
と自分に言い聞かせ、自分を欺こうとしていた。


 戻る    トリート × 3 TOP へ   小説 インディックス    続く♪



♬ 読まなくても良いあとがき ♬

こういう、今ひとつ相性の悪いサロン、有りませんか???

……この前私が浮気したサロンだよ!!

ってか。

さて、ここで登場する隆君、何を考えているんでしょうかね♡
実は廣瀬、この話を書いていて、彼の方がもっと気がかり! で
勝手な妄想を膨らませていました。
さて、その妄想とは?? 次話にご期待くださいね♪

ちなみに今日は、子供のおつきあいで一日川遊び。
おかげで日焼けしたさっ!
今、本日二度目のパック(一回目はシートパック。その後泥パック)
しております。
もう、若い七海ちゃんと違って、切実!!!!
あはははは。


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by hirose_na | 2010-07-17 22:33 | 恋愛小説