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恋愛小説 タダより高いものは無い 4

 夕方五時、音楽室。どこから聞いて来たのか
「なぁ、颯。返事、聞きに来たんだけど」
颯が掃除をしているその部屋の入り口を大柄な影が塞いだ。



もちろん、花形だ。彼は
“ノー”
の返事を聞くなんて露程も思っていないから、余裕の表情で手を振っている。
「ひゅぅひゅぅ!」
これ見よがしに誰かが口を鳴らし、彼女の箒を持つ手が止まる。
『女の子はね、好きだって言ってくれる人とつき合うのが一番だよ』
彼氏持ちの女友達からいつも聞かされているセリフが彼女の頭をよぎる。
『つき合っているうちに好きになるってのも有りでしょう』
でもそれってイケないよねっても思うのだ。なにしろ彼はタダの幼馴染。これからときめく事が有るとも思えない。
「充さ、今、掃除中だから」
彼女は決心をつけかねて問題を先送りにした。
「後で角のアイス屋さんで待ち合わせ、良い?」
「それじゃあ、待ってるよ。メールよこしてな」
彼は颯を見下ろしながら、まるで
『俺のもの』
とでも言いたげに彼女の髪の毛をくしゃくしゃと乱し、部屋を後にした。

 ざわめきを抜け出し、彼女は部屋の隅っこを掃除する。今は誰にも構って欲しくなかった。それなのに。
「颯、彼とつき合うの?」
彼女の隣りに並んだのは彼、ヨッシーだった。
「あっ、ああ、その、うん。ううん。分からない」
彼は探る様な顔つきで彼女の顔を覗き込む。顔、近すぎ。颯はドキドキしながら掃除を続けている振りをした。
「そっかぁ。残念だな」
不意に彼は唇を彼女の耳元に寄せるとそう言って
「ふふふ」
と笑った。
「えっ、ちょっと、何? 今の」
耳にかかった彼の吐息が暖かくって、全身がカッカと火照りそうだ。それなのに肝心の彼は涼しい顔つきでさっさと掃除を済ませていく。
「嫌だ、嫌。なんなの、これって?」
パニックに落ちた彼女はもう掃除に集中なんかできやしない。
「もうこれで良いよね? お終い!」
のかけ声で潮が引く様にいなくなったクラスート達に、二人は取り残されてしまっていた。
 彼は
「行かないの?」
そんな事を話しかけながら
「それとも僕に何か話しが有るんじゃないの?」
思わせぶりに彼女の箒を取り上げた。
「あっ、ご免なさい」
本当はありがとうって言う所だよな、なんて事を考えながら、でもやっぱりここはゴメンナサイだなって思う。はっきりヨッシーの事が好きだって自覚してて、それなのに充とつき合っても良いかもしれないって迷う自分がいて。ヨッシーがもし自分の事を好きでいてくれたら告白する勇気もあるけれど、今までの関係も全部駄目にしてしまって、充との関係もぎくしゃくしてしまう位だったらいっその事流されちゃえ、とか考えて。でもヨッシーを目の前にして
『やっぱ、好き』
そんな事を想うと、絶対にしちゃいけないって思う。
 決心、なんてそんな簡単につかない。
「ねぇ、ヨッシー」
彼女の勇気は小出しだ。
「ヨッシーはあの子とつき合ってるの?」
「はっ? あの子って、誰?」
それが彼の返事だった。

「ちょっと待っててね」
ヨッシーは手早く箒を戻し手を洗って来ると、彼女の待っている音楽室へ戻り音を殺しながらぴっちりとドアを閉めた。
「僕は彼女の恋愛相談に乗ってただけだから」
向かい合い、ちょっと説得する様な口調。二人っきりの密室が息苦しくて彼女はすでに逃げ出したくなっていた。
「そっかぁ、そうなんだ、ふぅん。仲良さそうに見えたのにな」
今告白する勇気なんか無い。
「詳しく聞きたい?」
そんなことを言われ、彼女は頷くしか無かった。それに対してヨッシーは心の中でにっこりと笑う。
「彼女とは中学の頃一緒に生徒会やってて顔見知りだったんだよ。でね、彼女ずっと片思いの人がいて、僕は相談に乗ってたんだよ」
「そうだったんだぁ」
「そうだったんだよ。しかもその男が最近僕の知り合いに告白したんだ」
「ふ〜ん」
と返事をしながら、何となく思い当たるふしが有った。
「でも彼女、僕がその知り合いの彼女の事好きだって知ってたからさ、間違っても“イエス”って言わせないように釘刺されていたんだよね」

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そうそう、
たま〜にこう言った感じの可愛いカップルを書くと
Rものを書くよりも照れてしまったりします ♪

by hirose_na | 2009-09-18 09:16 | 恋愛小説