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恋愛小説 タダより高いものは無い 3

 初めて会ったときのヨッシーはよく覚えていない颯だったが、香りだけはよく思い出せた。シナモンと生姜の少しスパイシーな香り。



1年生の始めの頃、応援部の朝練で疲れ果てよたよたと教室に戻り席に着いたときの事。彼女のお腹がぐうっと鳴り、美少女の部類に入る彼が
「食べる?」
そっと差し出してくれた紙袋。中身はジンジャー・クッキー。
「あっ、ありがとう」
遠慮と言う言葉とは無縁な彼女は
「ゴチになります!」
その少し形の悪い円盤形に食い付いた。
「んまい! 幸せ〜」
差し出されたペットボトルに
「今度お礼するね」
なんて返事をしながら残り一枚まで食べ尽くす。そしてふと気がついたのだ。
「これってヨッシーの手作りでしょう?」
直感、というかなんというか。すると彼はぱっと顔を赤らめた。
「おかしい?」
その仕草の可愛らしさに唖然としながら
「全然!」
彼女は大きな身振りでそれを否定し、残りの一枚も口の中に突っ込んだしまった。
「全然おかしくなんかないし。むしろ才能が有るって羨ましいよ。それよりお礼。今度させてよね」
入りたての高校はまだ見知らぬ事だらけ。友達も沢山いた方が良いし、何となく彼とは気が合いそうな気がした。
「良いよ、お礼なんていつかで。そんな事より、食べてもらえて美味しいって言ってもらえるのが嬉しいから」
彼はピンと伸ばした背筋のまま囁く様にそう言った。
「もし気に入ってくれたら、また作って持って来るね」
気に入ったも何も。
「やったぁ!」
素直に喜ぶ颯だった。
「ヨッシーって“いい子”だよね。あ〜、もう、抱きしめたい位!」
羨ましかった。彼は本当に可愛くて、美人で。しかも性格も良くてお菓子作りも上手だ。もし自分にヨッシーの1/10の
“女らしさ”
が有ったら人生変わったな、なんて事をその時は考え心の奥でため息をついていた。
「本当に羨ましいよ」

 お菓子作りが上手だと言う彼の噂はやがて口コミで広がった。最初は彼の容姿も合わさって
『ヨッシーって“お姉?”』
と何も知らない生徒から不思議な目つきで見られていた。でも彼は強くって、彼らしさを失わない。ある意味究極に男らしかった。そしていつからだろう。颯の
“羨ましい”

“好きかもしれない”
に形を変えていた。それは幼馴染の充を“大好きだ”と思う気持ちとはまるで違う“好き”を彼女に運んで来てくれた。
 ヨッシーは美人。たおやかで賢くて。決して声を荒げたりなんかしないし、いつでもだれにでも優しくて。花火みたいな颯とはまるで違う。似合わない。
 彼には他にも仲良くしている女の子がいた。クラス委員の彼女は合唱部。小柄で可愛い女の子。確か良い所のお嬢様で、彼とはとっても釣り合いが取れていた。
 それは彼からジンジャー・クッキーを定期的にもらい始めた頃の事。
「いつもありがとう」
受け取る時に指先が触れ合って
『あっ』
ってときめいた。彼はそんな颯の変化に気がつくはずも無く、
「食べてくれてこちらこそありがとう」
と微笑む。
「颯が食べてくれるから、僕も作り甲斐が有るんだよね」
「それって私のためだけに作ってくれているって事?」
探りを入れるけど
「まぁ、そうなるよね」
返事はひょうひょうとしていて彼の本意がつかめない。
「そっかぁ」
颯は言葉を詰まらせ、ふと思いとどまり
「ありがとう。これからもよろしくね。あっ、お礼はいつか大きくするから」
などとその場を誤摩化した。


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こういうお話を書いていて時々思う事。それは、男らしさとか、女らしさと言う話し。
主人公は色々な意味で格好よくないとね♪


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今日のお昼ご飯。
昨日の煮豚の汁に玉葱を入れて鶏肉をつけ込んで下味をつけて。
その鶏はカツレツ風にソテーして、
汁は煮込んで鶏の上にかけて食べます♡
香りが良いんだ、コレが ♪

by hirose_na | 2009-09-17 08:32 | 恋愛小説