恋愛小説 タダより高いものは無い 2
ざわめく休み時間、案の定颯の周りには友達が山の様に群がって
「どうなのよ、つき合うの?」
と詰め寄って来る。
「そんな、無理だよ」
彼女は何とかその場を誤摩化そうとする。その手には大好物のジンジャー・クッキー。
「私達、受験生じゃん」
「ふ〜ん、そう言う理由かぁ」
そう言いながら、彼女の希望大学は偏差値内だし、彼に至っては野球部の実績で有名私立大学の推薦枠がほぼ確定と言われていた。
「何? 受験さえ片がつけばつき合っても良いって事?」
「それだけの事だったら気にしないでつき合っちゃえば良いじゃん、ね?」
無責任な誰かが言う。
「どうせ幼馴染で親同士もよく知ってるんでしょう?」
「そりゃそうだけど」
颯の歯切れは悪かった。確かに、充(みつる)とは幼稚園の頃からの友人で
『僕ね、甲子園に出て優勝するんだ』
『うん、頑張って。あたしは充の事、応援するからね』
『ありがとう、颯、僕、優勝したら颯と結婚するからね』
なんて子供の約束が現実になって目の前にある。昨日あの時、夕暮れの校舎の裏で充は少し照れた様な表情で
『そろそろあの頃の約束、現実にしない?』
なんて事を言って来た。
『馬鹿言わないでよ。充、優勝しなかったじゃない?』
彼女は目を丸くした。彼が本気でそんな事言ってるなんて、ここで信じる事なんかできなかったから。
充はあんにもれず小学・中学とやんちゃしていた。才能で野球はしているものの、努力には欠け。ガキの頃から沢山彼女もいて、休日の街ではいつも違う女の子と一緒に歩いていた様子を颯はいつも遠くから見つめたていた。だから、最初から期待なんかしていない。
『常識で考えろ。私と充じゃつり合わないでしょう?』
すると充は悪びれずに
『まぁ、なぁ』
と頭を掻いた。なにしろ今までの彼女は雑誌モデルになれるようなかわいい子達ばかり。所が颯はこのエリアきっての
“男前”
どう見ても女らしくない。
『でもさ、俺、颯がいたから目標が有ったんだよ、分かる?』
子供の頃の戯れ言は、彼の中では過去の出来事のはずだった。だから別に颯に未練は無く沢山の女の子達と遊ぶ事ができた。でもいつだって気がつくと心の支えになってくれていたのは、にこやかに微笑む颯だった。彼女が
『頑張れ』
と言えばいくらでも頑張れる気がした。その事に気がついたのは夏が終わってからの事だった。人生最大の目標が無くなった今、彼に残ったのは彼女だけ。
『なぁ、颯』
充は彼女の頬にそっと指を滑らせた。
『俺、お前の事好きだよ』
颯は其の指を避ける様に首を振った。
『考えさせて』
二人の間に風が通り過ぎた。
彼女が頬張るのはジンジャー・クッキー。美味しそうにもぐもぐと。
「私達、やっぱ受験生だし、無理だって」
この大騒ぎは一過性の熱だって分かってる颯だった。だからやり過ごすしかない。それよりも。彼女は今朝見た夢が気になってしょうがなかった。なにしろ、ジンジャー・クッキー。窓際に佇み、かなり仲の良い
“友達”
のクラス委員の女の子と話し込んでいる小柄な少年、由行(よしゆき)君。あだなはヨッシー。このクッキーは彼が作ったものだった。それを噛みしめながらふと思う。
『好きってだけじゃ駄目なんだよね』
彼は颯が告白された事なんかちっとも気にしていない様子。傍にいる女の子に向かって笑いかけ、その手にそっと手を重ねた。それから耳元で何かを囁く仕草。みんなを見ているはずの颯の目の端がそんな彼の様子を捉え
『辛いなぁ』
って思う。そんな彼の目がふと巡り、彼女のそれと合う。長い睫毛に彩られた切れ長の視線が彼女に向かって何か言いたげな表情を作った。彼女はおどけた表情でそっと手にしていたジンジャー・クッキーを持ち上げ
『美味しいよ』
の仕草。彼はフフフと笑って隣りの彼女に視線を戻した。その間、彼の手はその子の手を握ったままだった。
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やっと一息つけている廣瀬です。
今晩は煮豚♪
豚腿の固まりをみりん・醤油・酒・水飴それから生姜で煮付けています。
ル・クルーゼ使ってますが今日のポイントは
鍋に半分のお水でやや強火で煮る事。
こうするとことこと煮るよりもお肉が柔らかくなるのです♪
お鍋半分のスペースに強いスチームがかかって、完全に被せて煮るより
美味しくできますよ〜♡ 付け合わせはほくほくのジャガイモ!
by hirose_na | 2009-09-16 15:31 | 恋愛小説