恋愛小説 クリスマスの悪夢 5 R15
5 デート
その日、彼女は携帯を握りしめ悩んでいた。メールをしようか、しないか。何度も打ち込んだ内容を消してはもう一度打ち直し。
“明日、買い物つき合って欲しいんだけど”
たったそれだけの事なのに半日も悩んでいただろうか。
「はぁっ。」
珍しくため息をつく亜莉沙に一緒に図書館にいた古くからの友達が
「どうしたの?」
と話しかけた。
「ため息ばっかじゃん。」
何しろ彼女はクールビューティーだったから。慌てず騒がず沈着冷静。その亜莉沙が物憂気にしているのが気がかりだった。
「亜莉沙、もしかして例の彼氏の事?」
彼女は誰とは教えてはいないものの
“付き合い始めた人がいる”
という事だけは教えていて、尋ねたみのりの方も
『ははん、ケンタウロス絡みの厄介な相手だから話せないんだな。』
なんてカンを巡らせ詮索はしていなかった。でも正直な所は興味津々。何しろ彼らはイケメンぞろい、彼らに近づく為に亜莉沙の友達になろうって近寄ってくる女の子さえいる始末。みのりもほんのちょっとだけ
『あわよくば』
なんて思っていたくらいだった。ついでに亜莉沙の恋話にも耳ダンボ。彼女がぽろっと暴露しちゃうことに期待していた。それでもガードは固いから。
「内緒。」
彼女は話しを切り上げた。
二人のデートはいつも彼が誘って来た。バンドの練習の合間に駿が妙ににやにやしながらメールを打ち込み
「何だよ、新しい女の子?」
なんてメンバーにからかわれながら
「ん〜、デートのお誘い。ってか今、俺の魅力でメロメロにさせてる所。」
練習中亜莉沙の携帯はマナーモードな事を知っていて
「彼女がうんと言ってくれます様に。」
なんてポーズをとりながら送信を押して。亜莉沙はポケットの中に手を突っ込み携帯を握りしめる。
『バレません様に。』
なんて事を思いながら。もちろん、そんなに簡単にバレはしない。それでも体中に響く小さな震えにドキドキし、どうしても携帯を見るタイミングをつかめないまま部屋の隅っこで小さくなっていた。しばらくして
「何だよ、返事無いじゃん。」
験治にからかわれた駿は
「泣きたくなる事言うなよな〜。」
困った様にその視線を全員にまわしながらその最後、亜莉沙を見つめた。
『嫌んなっちゃう。』
携帯を見ないでもメールを打てる人がちょっと羨ましいと思った。そんな油断した瞬間
「亜莉沙、悪いけどコーヒー飲みたい。」
突然彼が叫んで彼女に向かって財布が飛んでくる。
「やっ!」
以前からこんな事をする男だから彼女もとっさにそれを受け取れる。
「私、木っ端ですか〜?」
一通り文句を言って、でも結局買いに行かされるハメになり。部屋を出た瞬間、彼女は携帯を取り出し
「あっ。」
画面を開けると同時に手にしていたそれが振るえ、新しい着信が届く。
『やつぱ、好き。すげぇ好き。歌いながらずっと亜莉沙の事考えてる。早く帰って来て顔見せて。』
子供だな〜なんて思いながら、彼女はその携帯をぎゅっと抱きしめた。
彼は亜莉沙がお店に行っている間に返信をくれると信じてずっと待っていた。それなのに音沙汰の無いまま10分が経ち
「ただいま。」
なんて彼女が戻ってくるから
「遅い!」
何となく不機嫌になりながらコーヒーを受け取ろうとするものの
「みんなの分も買って来ました〜。駿ちゃんのお金で買って来たので、欲しい人は駿ちゃんにお金払ってね〜。」
彼女が袋を持ち上げた。
「げっ!」
顔を引きつらせる駿に
「御馳走様〜」
みんながふざけて金を払おうとせず。
「覚えてろ!」
彼は自分用に彼女が選んだヘーゼルナッツシロップの入ったエスプレッソを口に含んだ。同時に彼の携帯が鳴り始め、思わず亜莉沙を見てしまう。彼女の左手はポケットの中。何気ない顔で駈と話しているけれどぎこちなさを感じ、もしやって気持ちで携帯を開ける。
「来たっ・・・・。」
その表情を他の連中に見られたくはないから思わずくるりと背を向けて。
『良いよ』
その一言に天にも昇る気持ちだった。思わずしてしまったガッツポーズに
「返事来た〜?」
したり顔の和馬が笑った。
そんな事の繰り返し。でも彼女から誘った事は1度も無かったから。だから散々考えて、今回だけは少しだけ勇気を出してみようかと思い
『土曜日のお昼、空いてる?一緒に服選んで欲しいんだけど』
やっとそれだけを送る事が出来た。普通は女の子同士で買いに行くものかもしれない。でも亜莉沙は彼の選ぶ服を着てみたかったのだ。駿に
「似合う。」
そう思ってもらえる服ってどんなだろう、そんな事を考え少しわくわくしていた。それなのに。1時間後に彼が生声でかけてよこした電話は
『ゴメン。その日は駄目なんだ。』
だった。彼とても彼女が初めて誘ってくれたって事に気がついていないはずも無く
『どうしても抜けられない大切な用事があるんだよ。』
沈み込む声を出していた。何しろ1時間かけて交渉したのだから。だからそれは嘘じゃなかった。嘘じゃ無いけど、訳はある。亜莉沙には話せないその
“理由”
に彼はほんの少し胸が痛み
『ねぇ。』
精一杯甘える気持ちで言っていた。
『日曜日はどう?まるっと一日二人っきりで過ごせるよ。ってか、一緒に過ごしたいんだけど。』
その済まなそうな口調が彼女の耳元で震えるから、情けない位このままこの声を聞いていたい、そんな事を彼女は思った。だから反対に
「あ〜、残念。」
彼女は仕方が無いなって声を出し
「ご免ね。せっかくだけど日曜日はバイトだから。今度つき合ってね。」
その会話には5分もかからなかった。静かになった携帯を持ちながら
「嫌だな。」
彼女は呟いた。電話越しに聞こえる彼の声で、まるで後ろから抱きしめられている、そんな気分になってしまうなんて。
再来週には学祭で。それまでは学生らしくそこそこそつのない服を選んで着ていたのだが、最近になって他の女の子達が着ているひらひらとした可愛らしい服をちょっと羨ましいと思う様になっていた亜莉沙だった。何しろ片思いの期間が長かったから。どうせ駄目だっていう諦めの気持ちの方が強くって、むしろ努力はしないってのが方針で。そうすれば振り向いてもらえ無いのが
“野暮ったい”
って言う自分じゃどうしようもない事が理由だって言い聞かせる事が出来たから。でもそろそろ努力しなきゃって思い始めた所だった。
「ふうっ。」
彼女は人ごみの渦をかき分けた。やって来たのは滅多に足を運ばない華やかな繁華街。さすがに土曜。女の子達に人気のお店はどこもかしこもごった返している。みんな友達を連れ、真っ先におしゃれな服装をしてやって来ていて、
“これからおしゃれ始めます”
なんて子は皆無だった。彼女だって友達はいて、たまにだけれど一緒に買い物もする。でも今日だけは一人で歩きたい気分。何しろ
“可愛い自分を目指す!”
なんて事、初めてだったから。変な服を選んじゃったらどうしよう、とか似合わなかったらどうしようと言う事よりも、まず
“買う”
という決心をつけられるかどうかが疑問だった。友達に
“似合うよ”
って勧められた服が自分じゃ絶対に似合わないって思う超ミニスカだったとして、勇気を出して買ったとしても、いざそれを着てみようとなると着れなくなるのが分かってた。
「ふうっ。」
彼女は何度目かのため息をついた。色とりどりの服が並び、目移りし、どれが良いのかなんか分からない。それどころか、服を買えばお終いってんじゃなく、バックとか靴とかアクセサリーも選ばないといけないと思うと気が滅入りそうだった。
「普通の女の子に産まれたかったな。」
彼女は十分普通の女の子なのに妙に落ち込んでいた。ただ今までそう言う事をしてこなかっただけだって言うのに。
幾つか欲しいなぁと思える候補は挙がり、でも最終的には決心がつかず少し考えようかと駅前のコーヒーショップへと足を運んだ。そこは大手のコーヒーチェーン店で程よい値段と広いスペース。つまり色々な人がいる訳で、片隅で勉強していようが何をしようがひっそりと目立たない。彼女はそこに腰をおろしホットココアの載ったお盆をそっと置いた。その日は快晴。雲1つない青空で外は眩しく輝いている。ロータリーの近くにある噴水は七色の虹を作り、その側では群を抜いてキレイに着飾った女の子達が笑いさざめいていて、いかにもな雰囲気で男の子とじゃれ合っていた。その楽しそうな空気の中に彼女は見慣れた影を見つけた気がした。
「あれって・・・・。」
伸ばしかけの髪、お気に入りのシャツ。背が高いから猫背気味に女の子に話しかける癖。
「嘘・・・・。」
その彼の
『ねぇ、』
って話しかける声さえ聞こえて来る様だった。
もどる クリスマス 目次 小説 インデックス つづく
王道 ♬ 王道 ♬
イケてる彼氏〜 ♪
冴えない彼女〜 ♪
これで結構 べた惚れな彼〜 ♪
『君しか見えないんだ!!』
んでもって(いろんな意味で)逃げ腰彼女〜 ♪
そして、モテ系彼氏の浮気発覚!?
・・・・あはははは!!
駿、頑張れよ!
この次の君のお題は『大弁解!!』だ ♬
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ランキング、上がってますよ〜 凄いです〜 らんらん
by hirose_na | 2008-12-18 15:18 | 恋愛小説