恋愛小説 ジンクス“7年目” 7 R15

第七話  電話でゴメン

 仕方が無いから仕事して。パソコンとにらめっこするけど、どうにもならない。気がついたら鳴りもしない携帯を無意味に開けたり締めたりしているし。



 若かったなって。今の私にはあの時のがむしゃらで向こう見ずな情熱はもう無くなっていて、何だか抜け殻みたいな感じだった。待ってるだけで、行き場がない。
 佐々木君、今頃何してんだろう。私と同じ?洗濯して、仕事して。まさか飛行機でこっち向かっててくれてたり?そんな、有り得ない事考えてみる。
「無いよね、それって。」
彼に限ってそんな事しないし。それにさっきニュースで聞いたから。
“豪雨のため博多発着便、全便欠航”
 結局仕事も手つかずでだらだらと過ごし、来た電話は恵から。
『どうせ今晩も独りなんでしょ?彼氏は忘れて、コンパ来ない?きっぱり言うけど、人足りなくて困ってんの。』
彼女は例え別所の事が好きでも、だからといって手を抜かないアグレッシブな女なのだ。
『相手は準国営企業の若手君。ついでに持ち出しは4割って感じで。』
「どうしよっかな。でも、雨だしな。」
『だからいいんじゃん?嫌だったらソッコータクシーで帰れるし。逆も有りってね。どうせテレビ見る以外する事なんてないでしょう。それとも仕事してる?あっ、やっぱり?それって、枯れてない?』
ま、そう言われりゃそうだ。ふと答えに詰まった耳元に
『奈保子ってこの手のコンパに一度も来てくれた事ないじゃん。別にマジで浮気しろって言ってんじゃないし。女子が2人も足りなくてピンチなのよ。たまにはボランティアしてよ。もう、頼んますよ。』
ある意味必死な恵に笑える。
「今度奢って。」
『そう来なくっちゃ。じゃ、6時。待ち合わせ場所の地図、あとでメールするねっ。キメて来るんだよ!』
電話切って、もしかしたら私は彼女から元気もらってるのかもって思えた。

 でもやっぱり、佐々木君との事はしこりになっていた。
「キチンとサヨナラ、しないとね。」
今まで彼とつき合っていて合コンに行った事無かったし。でも、
『合コン誘われた。』
って言って彼に焼き餅屋かせようってした事有ったけど、そんなに怒らなかったなぁ、なんて。そんな事を思いだしながら、やっぱりそうだったのかぁ、って本気でシフトチェンジしないといけないの感じてた。
 多分来週の金曜日、別所には返事をする事になるんだ。
 今晩中に別れよう。そう決心して私は立ち上がったさ。恵からの地図案内はすぐに届いたから、その勢いで携帯の電源を切った。鳴りやしない電話に振り回されるのはもうゴメンだ。
「さっ、合コン、合コン!青春取り戻そっ!」
合コンって、何、7年ぶり?
 気がつけばお仕事服以外たいした服を持っていなかった私。ここ数年彼と会う時はいつも普通の服だったなぁって。長距離移動するのにおしゃれなんて出来ないし、彼と一緒にいく所はおしゃれして行く所なんか無かったし。
「それがいけなかったのかな。」
釣った魚にエサあげてなかったなって。きちんとおしゃれして、気合いでメークも無かったかも。何だか私、彼と会うたびに何か美味しいもの食べてえっちばっかしてた気がする。まるで男じゃん?これが敗因ね。引っ掻き回したクローゼットには地味服ばっか。
 でもねって、思ってしまう。会えなくなったからおしゃれしなくなったんだよって。

 悔しいけど、そうだよね。だってさ、こういっちゃ何だけど、学生の頃の私はもっと輝いてたよ。毎日おしゃれしてさ。メイクも日々進化で。でも、仕事に熱中する様になったからこうなったんじゃないよ。あいつが頑張ってるから私もって、そう思って仕事は頑張ってたつもりだったのに。
 どこですれ違ったんだろう。
「距離、ですか。」
それは物理的にも心理的にも。悲しいけど、現実だから。別れを決めたんだから。自分に喝!新太郎。
 取り出したのはとっても古いキャミワンピ。今更こんな古いスタイル着る気にはならない。第一、足を出すのには歳、とり過ぎだし。でも今更合コンに行く服を買いに行く気にもならなくて。仕方が無いからレギンスにレースのカーデガンを合わせて鏡の前でポーズをとる。
「悪くないじゃん。」
そう、悪くなんか無いもんね。言い聞かせてメイクにも励んだ。今日は雨降り。コンタクトでも痒いの我慢できそうだし。アイメイクだってばっちりさ。髪の毛だけは言う事聞いてくれないけどね。
 そして5時。待ち合わせにはちと早いが、家、出ちゃう。でもその前に。電源入れ直し短縮ダイヤルの一番最初を押してみた。長い長い呼び出し音。出ないでくれたらほんの少し嬉しいと思った。もしそれだったら
『メールでゴメン。』
って逃げられるから。でも結局、
「電話でゴメン。」
彼が話し始める前に勢いつけて
「もう、別れよう、ね?」
頭で考える前にしゃべってた。電話の向こうも雨降りの様子で、彼はどこかを歩いているみたいだった。クラクションに水しぶきが跳ねる音。
『聞こえない。』
少しいらついた声が聞こえた。
「だから。」
だから。
「別れよう。」
でも肝心の返事すら聞こえなかった。
「 ねぇ、聞こえてる?」
タイミング悪かったのかな?戸惑っていると
『お前、誰だよ。』
聞き慣れた声がそう言った。
 それは、無いんじゃ無い?佐々木君。7年だよ。7年、7年もつき合ってきたんじゃなかったの?
「奈保子、ですけどぅ。」
今度はでかい声で言ってやったさ。
「な・お・こ。佐々木君忘れてるかもしれないけど、奈保子ですから。その奈保子がね、別れたいって言っているんですぅ!!」
受話器両手でもって叫んでやった。
「じゃ、そう言う事で、どうせ遠距離だし、上手くいかないから。どうせ、会えやしないんでしょ?会ってもくれないんでしょう?じゃぁ電話で十分、だよね!!」
それからもう一言、何か怒鳴ってやろうとしたその時、玄関のドアを激しく叩く音がした。
「五月蝿い!」
誰だよ、こんな時に。私は確認する事さえ忘れ鍵を外していた。相手を見るより、携帯の方に夢中だった。すると
「すんげぇ、ムカつくんですけど。」
目の前には携帯片手の佐々木君が立っていた。


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by hirose_na | 2008-09-29 12:09 | 恋愛小説