ホット・スパイス 玉の輿 2

           2 交渉人

 もしかして・・・・と思った方、いませんんか?ここでその美少女が実は美少年だった〜! 的な展開は有りませんからね。どこかの誰かと口調が似ていた?いえいえ、気のせいです。それに彼女はちゃんと女装(?)していますから。



 お話戻ってその2時間前の事。慌てふためいた家来達はとにかく近くの民家を探しました。そして見つけたぼろい家。そこから出てきた子供連れの若い娘は、御一行様を見て顔をしかめました。
「え〜、でもさぁ、助けたげたいけど、うち貧乏だし、こんな家じゃない?大勢入ってこられて壊されてもやだし、第一助けるにも道具買ってこなきゃいけないしね〜。まぁ、とりあえず壊したら弁償してもらうって事で、そこのベッドに寝かせるくらいなら許したげる。」
明らかに高貴な身なりの王子を目の前に彼女は平然と言ったのです。王子の腕にはぷっくりと二つの牙の後。誰が見ても、毒蛇。しかも彼、気を失ってるし。
「そこをなんとか!!助けるのは国民の義務と言うもの!」
何しろ王子の身の上に何か有ったら堪りません。もちろん、もうすでに起こってはおりますが、助かって城に戻るのと、このまま冥界へと旅立つのでは雲泥の差。それに、助かりさえすれば後は口八丁手八丁。なんとか言い逃れは出来ますから。   
「そういわれてもねぇ。道具って言ってもタダじゃないし。」
物怖じしないその少女は、寝かされた王子の腕をつかむと、慣れた手つきで麻ひもを巻き付け縛り上げ、手の先をベッドの下へと垂らします。すると傷口からはぽたりぽたりと黒い血が。
「とりあえず、洗って清めない事には!」
叫ぶ御付のものBに彼女は白い目を向けました。
「阿呆。禁句路来恩多真倫蛇(きんくろらいおんたまりんじゃ)の毒は水に触れるともっと強くなるんだよ。それを洗ったらどうなるって。あんたこいつに死んで欲しいんかい?」
正直彼女は目を見張る美少女なのです。それなのにこの口のきき様と来たら。
「知ったかぶりするなって、親から教えてもらわなかったのか?」
等と。でも言っている事は、正しい。彼らも捕まえた蛇が正にそれだって事は知っていたのですから。ですから、不敬な言動に
『だまらっしゃい!』
と言いそうになる御付のものBをAが制します。
「それでは、知っているあなた様に是非にも御願いしたいのです。なんとか助かる方法は?お金だったらいくらでも御支払いできますから。」
お決まりです。彼女の瞳が ラン♪ と輝きました。
「そうだなぁ、出来なくもないけれど・・・・・。」
「金10000マジョラムで。」
この国の通貨で日本円換算で1マジョラム 1円に当たります。
「15000 マジョラム。」
彼女は首を振るばかり。
「2万 」
「3万 」
ロンドンのオークション会場の様に御付の者達は手に汗握っております。しかもこの家には他にも小さい子供達が数人いて、その様子をアメ横の叩き売りかの様にわくわくしながら見つめていて。まぁ、刺激の少ない田舎の暮らし。許してやってください、です。
 で、王子の腕からぽたり、赤い血が落ちた瞬間、彼女が立ち上がりました。
「200万マジョラム〜!」
御付のもの(以下御付)C の金切り声。彼女はほんの少し頬をゆるめ
「しゃぁねぇなぁ。」
と頷きました。内心、ここまでぼったくれるとは思っていなかったアニスです。彼女は目で見える限りの毒が出るまで交渉しちゃおう♪って思っていただけでした。勝手につり上げたのは御付の人達ですから。

 実はこういう成り行きが有った訳で。
 ちなみに彼らが買ったのは、掌サイズの牛の肉(誰がどう見ても台所から持ってきた)とそれに擦り込む大量の塩。それと彼女の技術でした。数年後、アレは暴利だと持ち出す御付のもの達に
「王子の命がたった200万だなんて、安くない?」
なんて話しをするなんて、この時の彼女は夢にも思っていませんでした。
 塩を含んだある意味とても美味そうな牛の肉が、王子の白い肌にぺたりと張り付きます。それが蛇の毒を吸ってくれると彼女は言うのです。
「人間だって同じ。毒だってそう。美味そうな方を選ぶものだって。」
それを見ていた一番体の大きな男の子が叫びました。
「ねぇちゃ〜ん、腹減った〜!」
するとつられて
「あたしも。」
今度は一番小さな女の子が囁きました。
「そうねぇ。」
美少女は手をぱちんと鳴らし、
「あたしはこいつ(王子様)に係りっきりで手が離せないだろ?だからあんた達が持ってる食い物をこの子達に分けてやってよ。じゃないと、ねえ?」
と薔薇の花の様にこやかに笑ったのでした。

 それ故に、王子が彼女と結婚する!と叫ぶにあたり、御付A および C ・D はこう考えたのです。
『この女、以外に出来る!
 見た目よし、性格図太く、根性あり。何より交渉力が有る。もしや、阿呆王子の妻とし   
 てふさわしいかも!』

 かくして、少女の運命は奇妙な方向へと流れていくのでありました。
 
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by hirose_na | 2008-05-20 12:21 | 小説インデックス