恋愛小説 ♡ トリート・トリート・トリート 4

4 綻び(ほころび)

『何かが違う』
そう感じる女の直感はだいたい当たっている。
 かなりイケてて、優しい彼。仕事に謀殺され余裕のない七海なのに、隆君はいつもにこやかで、正に理想の彼そのものだった。そう、デートに遅れても、ドタキャンしても怒らないのだ。最初のうちは
『なんてできた人間なんだろう』
と感動していた七海だったが、やがてそれは
『似合っていますよ』
と勧められた髪型の、本当は口先だけの褒め言葉のような違和感を彼女に感じさせることになる。



そしてその疑いは現実に変わる。彼の高校の同窓会が行われ送られてきた沢山の写真の中に、いつもの穏やかな表情を消し去った
“本物の”
隆君の姿を見つけてしまったから。
「どうしたの、これ。いつもの隆君の顔じゃないよ」
地雷を踏む覚悟で七海は一枚の写真を指差した。カメラを向けられていることを知らない、無防備な横顔。そこに有るのは、嫉妬と怒り。激しい、憎しみ。
「隆君でもこんな顔するんだね」
つき合い始めて半年。その間、七海は彼のこんな表情を一度も見たことはなかったのだ。
「あっ、いや、これは……」
彼は初めて七海の前で動揺し、蒼くなり、言葉に詰まりながら、そのくせ
「いや、何でもないよ」
目の前の写真を奪い返そうとした。
「嘘つき」
写真の中の彼の視線の先には、ファインダー越しにはっきり分かる綺麗な女性がいて、微笑む彼女の肩には馴れ馴れしくかけられた男の手がった。隆君はその二人を食い入るように見つめていた。
「嘘なんて、バレるんだから」
後から思う。どうしてそんなに強い口調で隆君を問いつめてしまったのかと。それは彼女の心に有った、自分自身の罪悪感がそうさせていた。七海こそが、前の彼を心のどこかで今でも思っていたから。そしてそれにも似た感情を隆君の中に感じ、完璧すぎる彼の綻びに、どこか安心を見いだそうとしていたから。
「済まない」
隆君の告白は思いもかけないものだった。そのくせ、七海にはどこかそんな予感は有って、素直に受け止められる自分がいた。
 隆君の片思いは、中学時代にさかのぼる。親友の初カノと、グループ交際。いつかその親友の彼女を好きになり、でも気持ちを言い出せないままずるずると時が過ぎ、やがて二人は結婚へと行き着く。
「披露宴では俺が親友代表のスピーチをしたんだ」
彼はぼんやりとした瞳で遠くを見ながら七海に語った。
「よく晴れた日で、花嫁のドレスがとにかく綺麗だった。貴文も笑ってて、親戚連中も全員集まっての盛大な式だった。友達もみんな集まって、まるで同窓会みたいな結婚式だったよ。だから、二人が幸せだったらそれでいいって思ってた。俺のこんな気持ちは、初恋ってヤツの甘い幻想だって。でもさ、あいつ、結婚二年目で浮気して。それが原因で渚ちゃんは流産しちまったんだよ」
“流産”
その言葉を言う隆君の口元がぐっと引き締まり、眼差しに憎しみが湧き上がる。
「あいつの浮気相手が渚ちゃんに嫉妬して、えらいことしでかして、それで渚ちゃんは子供を亡くしたんだ」
握りしめられた拳が小さく震えた。七海は唖然とし、言葉を失った。
「彼女はずっと苦しんで、結局二人は別れたんだ。それなのに……!」
彼は吐き出すように言った。
「あいつはあんなことして離婚までしたって言うのに、図々しく渚ちゃんに言い寄るし、
彼女はそんなあいつのことを許しているなんて!」
それは七海が予想もしていなかった“愛の告白”だった。
「腹が立った。二人とも殺してしまいたいって思うほど、憎かった。だから……いや、違う、こんな言葉、七海が知りたかったことじゃないよな」
彼は見るからに混乱し、頭を何回か振って考えを整理しようとしていた。でも
「何となく、分かる」
七海はむしろそう答えていた。彼の完璧すぎる彼氏像がどうして出来上がったのか分かった気がしたから。
「私は彼女の身代わりだったのね?」
写真の中の女性は、はっきりと分かるほど七海と目元が似ていた。それから泣きぼくろの位置さえ同じ。だからきっとそうだったのだ。彼は七海を通し、本当に尽くしたい人に、本当にしてあげたかったことをしていた、ただそれだけだったのだ。
「俺だって、渚ちゃんのこと忘れて、普通の恋愛をしたかったんだよ。セックスだけのつぎはぎの恋じゃなく、本当の恋がしたかった。それを、七海とだったらできる、そんな気がしたんだ」
言葉に偽りはないと七海は感じていた。ただ、彼の心がそれについて来ることは無く、結局彼が愛することができたのは、渚さんだった、という話だ。
「分かる気がする」
七海だって同じだった。こんな完璧な彼がいて、でもいつだって元カレを思い出していた。あの長い指がゆっくりと彼女の髪を梳きながら
『大好きだよ』
って囁いてくれる、静かな夜。彼が無意識な感じで七海の髪の毛を指の先にくるくる巻き付け、
『俺の七海』
と呼びながら眠りにつくひと時。二人とも疲れきっていて、何をすることも無くただ一緒にいるだけの空間を、忘れなければいけないと思いながら、その気持ちをきっかけに思い出す自分。心は変えられない。
 忘れられない人への愛を七海に対する謝罪の気持ちで隠しながら、ソファの上に小さくうずくまる彼。だから
「仕方がないよね、それって」
彼女は彼から離れた場所で、自分自身に向かってそのセリフを言っていた。


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♬ 読まなくても良いあとがき ♬

梅雨明しちゃった!
今年は例年より早いよね!?
ああっ! 暑い夏が来る。

未だかつて夏バテで食欲が落ちたことは有りません。むしろ、
ビールが美味い♡ 美味い♡

いや、そんなことを書きたかったのではなくてですね、
『隆君の本命方向って、どうなのよう!?』
って、この話を書きながら、妄想が大脱線!
私は何をしているんだろう???? なのでした。
いや〜、
『切ない男心』

『三角関係』
これはやっぱり、大好きなのよね♥
でも取り合えず、このお話を完結させなくちゃ!


女性限定―The Secret Book

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by hirose_na | 2010-07-18 16:15 | 恋愛小説