恋愛小説 ♡ トリート・トリート・トリート 2

2 元カレの記憶

 初めて彼に会ったのは入社式当日の事だった。学生時代を真面目に過ごしレポートを仕上げる事に必死だった七海は、そのおかげで無事に就職できたとはいえ、女の子らしい綺麗さとは無縁で過ごしてきてしまった。おかげで当日は、ほぼスッピンなナチュラルメイクに、真っ黒なストレートヘアをゴムで結んだだけの、今時有り得ないスタイルだった。



「それは無いよねって、正直思ったよ」
後から友達になった同僚が、飲み会でその当時の彼女を振り返り、すっかり社会人らしく装うようになった彼女をからかった。当然七海も、会場で浮いている事にすぐに気がついていたから、一緒になって過去の自分を笑い飛ばした。なにしろ入社式に並んだ女子はみんな清潔だけど華のある、素敵な装いに身を包んでいたのだから。社会人になったら女性はおしゃれをして綺麗にならなきゃいけない義務があるんだって知った日だった。その日の夕方、微妙に落ち込む七海に向かって、
「勘違いしている姿は見苦しいけど、きちんとしている姿は他人に不快感を与えないからすっと素敵ですよ。それにコンプレックスだって言うけど、コシのある美しい黒髪って、むしろ憧れ何じゃないですか。しかも、これから変えようと思ったら、いくらでも変えられる万能選手な髪ですよ」
と笑った。それが彼だった。
 彼女だって知っていた。努力すればどんな女の子だって綺麗になれるって。でも青春時代を勉強に費やし、もう20を越えてしまった七海は
“もう女の子って年じゃないよね”
となかば諦めかけていた。それにスタイルに気をつけ、ファッションセンスを磨いている同僚達と比べ、今更頑張るのって、むしろみっともないだけだってそう思っていた。
 でも彼女を認めてくれる彼に出会ったことで、七海はもう少し頑張ってみようかな、そんな気持ちになったのだ。そしていつしかその気持ちは
“気になる人”
から
“凄く気になる人”
へと変化し、お互いが
“大好きな人”
に落ち着いた。だから彼にキレイだって思って欲しくって、毎日を努力するようになった。
 しかし、そんな七海は今や姿を消しつつあった。原因は全て自分の中にあると分かっていて、彼女はやりきれない。彼とつき合ったあの夢の様な二年間が嘘のようにかすんで見え、今の自分をとてつもなく惨めに感じながら、雑誌の中で笑う魅力的な女の子達の姿を頭の中で透明人間みたいにスルーさせていった。
 破綻した理由は彼女の浮気だった。とは言っても、その前にきっかけは合ったのだ。新しいプロジェクトのメンバーに加えられ、それまでした事の無かった他社との交流という仕事が増え、より外観が重視されるポジションに付いた彼女は、
「ねぇ、このスーツ似合うかな?」
子供に見られない様にするにはどうすれば良いか、仲の良い同僚につき合ってもらい、新しい服を買い増やした。それはかなりのグレードアップ。
「絶対彼も“アダルト七海”に惚れ直すよ」
という女の子達のお墨付きももらい、彼女は待ち合わせの場所へと急いだ。しかし肝心の彼は
「似合わないんじゃないですか?」
と冷たい口調で七海を突き放した。
「えっ、あっ、そうかなぁ。自分的には似合っている気がするんだけど……」
彼は明らかにブラで矯正している胸元と、ぎりぎりの所で止まっている第一ボタンを見下ろしながら顔をしかめた。そして
「頑張り過ぎると疲れるんじゃない?」
黒だけど気合いの入ったパンプスの足下まで視線を下げ、目を細める。
「そんなハイヒールじゃぁまともに歩けないだろうし、スーツだって窮屈そうじゃないですか」
『それでも格好良い事は大切なの』
彼女はその言葉を飲み込んだ。もしかしたら男の彼には分からない事かもしれないのだから。結局女子は男以上に外観で判断されるものなのだ。青臭いリクルートスーツじゃやっぱり舐められるし、フェロモンを剥き出しにしなくても、女性はキレイでいた方が何かと得なのだ。
 だから彼女は
“我慢をして”
彼に言いたかった意見を飲み込み、彼の
『似合わない』
と訴えている視線を外す事にした。
 その日のデートを境に、七海の仕事は忙しさを増し、会えない日が続くようになった。
 そして肝心の服なのだが、会社の女子達の評判は上々。
「カッコいいよ」
「似合ってる」
その上、上司の受けも良く
「一皮むけた感じがするね」
とまで言われた。取引先の男性社員の視線も心無しか眩しく感じる。
「ありがとうございます」
照れながら答える度に、笑顔とは裏腹に心のどこかで落ち込んでいた。彼だけが自分の事を分かってくれていない、そんな気持ちになってしまったのだ。頑張ってる自分を応援してもらえないのは辛かった。誰よりも分かって欲しい人だったから。そんなある日、彼女は過ちを犯した。
「会った瞬間、惚れたって思ったよ」
友人にどうしてもとお願いされて出たコンパにその彼はいた。細面の顔立ちに仕立てのいいスーツ。なぜか肉食が揃った男子の中でも、ある意味彼はひときわタイガーだった。
『駄目駄目、彼女は。彼いるし』
女の子達はその声を心の中に押しとどめる。だってここは合コンだから。一人が外して流れが変わる様な事は御法度だ。
「七海ちゃんって、みんなから可愛いって言われるでしょう?」
イケてる男に真顔でそう言われ、
「ないない! ただ、年のわりに子供っぽいだけで」 
大きく首を振って否定するけど、まんざらじゃない。その帰り道、ちょっとした弾みで道を外した。


   トリート × 3 TOP   小説 インディックス  続く♪  


遅くなりました。
明日息子が川遊びに行くのですが、
友達にケーキを焼いて持って行きたいと言い出して、
今日は午後から息子にケーキを焼かせていました。
パウンドケーキ四個に、
マフィン12個!
オーブンフル稼働で、台所が超暑い!!
その上色々準備が有って遅くなりました。
夕方頃からチェックしてくださった方、いらっしゃったらご免ね!

多分明日も更新できるとは思いますが
時間が足りなかったらスミマセン。
でも、可能な限りアップしますね♡

そうそう! 読まなくても良いあとがきを書くんだったわ!

七海ちゃんみたいな体験、したことないですか?
頑張っている自分を褒めて欲しいのに、裏目に出る、みたいな。
男ってどうして批判的なんだろうって思うこと、私は結構有ります。
反対に、女性同士だと多少嘘でも
「意外と良いよ♡」
って感じでゆるくオッケー出してくれ、ほっとしたりして。

恋人同士が別れるのって、派手に何か喧嘩をするって事よりも
ささやかなすれ違いが原因じゃないかなって、そう感じる廣瀬でした。



女性限定―The Secret Book

   ブログランキング・にほんブログ村へ     人気ブログランキングへ
[PR]

by hirose_na | 2010-07-16 22:31 | 恋愛小説