恋愛小説 七夕の夜の悪夢 前編

昨日の夜に思いつきまして、とりあえず半分書けたのでアップ!
かなり強引? あはははは。なんと今回R指定無しの予定!?



     七夕の夜の悪夢 前編

 それは七日間の特別休暇明けの事。実質12日を遊び倒した早乙女星羅(さおとめせいら)の身の上に降り掛かった不幸の話し。
 まず会社に行き、早朝の受付で
「あら、ガンダムちゃん」
声をかけられたのが始まり。
「お久しぶりね。今日は七夕だから、短冊書いて行きなさいよ」
それはほんのちょっとの
“強要”
を含み。
「そうですね」
星羅はまだタイムカードをおすには10分有るなと時計を確認し、受付脇の大きな笹飾りのたもとで隠れる様にペンを走らせた。
 いつもだったらそんな事はしない、そんな事、書いたりなんかしない。でも今回は特別。魔が差した。
「これで良し」
そのピンクの短冊をそっと一番下に結びつけ、キレイで綺麗な受付の女の子にぺこりと頭を下げ背を向ける。
 ガンダムって、彼女のあだ名。でかくてごついから。しかも名前が星羅(セーラ:ファーストガンダムのメインキャラ)だし。フツー女性にそんなあだ名を付ける事はしない。でもここは中途半端に
“一流”
の会社だった。つまり基準になる常識のねじが少し弛んでいた。社長は歌舞伎の女形を見紛う(みまごう)優男で、女性スタッフはまるで同じ形成外科にでもかかったかの様なお美しいお顔立ち。年配のオヤジはいまだアラン・ドロンを崇拝し、社員のほぼ全員が近くのスポーツジムの特別会員。
“美しくないものは存在してはいけない”
をモットーにする明治に端を発する総合商社。だから彼女の様に32にもなって化粧気もなく、車を運転するだけの実務の専門なんか誰も相手にしない、いや、しないはずだった。
 彼女の所属は
“秘書課”
意外な事にここにはもうすぐ退職のオヤジなんかもいたりする。
「お久しぶり、早乙女君」
彼はいつも星羅の事を苗字で呼ぶ。彼女にとって一番恥ずかしい呼び名は
“星羅ちゃん”
二番目は
“早乙女さん”
もちろん会社だからそんな事誰も気にしない。
「休暇は楽しんで来た?」
彼はポンポンと彼女の肩を叩き、
「バリ島に行った割に日焼けはしていないんだね」
と含み笑い
「今回例の彼と行ったのかな?」
小さな声で、でもみんなが思わず聞き耳立ててしまいそうな大きさで囁いた。
「ち、違いますよ」
慌てて首を横に振る星羅。でも、それがかえって怪しかったりする。
「特別な人がいるんだったよね?」
ぼそぼそと呟く彼に悪気が有った訳じゃない。というよりオヤジは星羅の事がお気に入りで、ついこの間も
『お見合いしない〜?』
なんて彼女に持ちかけてたぐらいだった。その完全なセクハラも彼女に対する愛の裏返し。だからそれに対する彼女の控えめな
『好きな人がいますから……』
宣言で、彼としてはむしろ応援している♡ つもりだった。そんな二人を横目に見ながら
「何あいつ。たかが運転手なのに」
冷たいまなざしをくれる社員もいた。美人じゃなくてむしろ木偶の坊。特別なスキルも無いくせに、いつでも社長に信頼され、会社のアイドルと一緒にいる星羅が彼女達には腹立たしかったのだ。とそこに
「さて、どうしたの、この雰囲気」
いきなりドアが開いて颯爽と入って来たその人物は
「あっ! 社長」
一斉に緊張が走る。定刻。
「お早う」
彼は白魚の様にほっそりした指を振りながら軽やかに挨拶をする。
「今日も頑張りましょうね」
なんて。そんな織部保司(おりべやすし)を見て星羅はため息をついた。
「羨ましい」
心から。そして
「狡いよ」
って。
 彼は上品が服を着て歩いている様な男だったから。シミの無い艶やかな肌に、切れ長の目元。おっとりと話すその口調に、細身のスーツ。磨かれた指先に、香を焚き込めた様なサンダルウッドの香り。まるで浮世絵に出て来る美人立ち姿図の様。そして彼女はガンダム。太目の眉毛に広い肩。バリ島でしてもらったネイルケアは昨日の夜のうちに落とし、爪は短く切って来た。その甘皮にうっすらと残るピンクの痕跡に気がつき、彼女ははっと指先を隠した。スタッフの女性達がしているその完璧な指先を見て
『もしかしたら自分にも似合うかも』
そう思ってチャレンジしたその名残。全ての影を消す強い日差しに下だったら見逃せる様な開放感は、会社の中では羞恥心でしかない。
『似合わない』
星羅はいつもの様にうつむき、打ち合わせのミーティングに心を入れ替えた。
 彼女の仕事は社長の運転手兼雑用係兼秘書もどき。社長との打ち合わせを終えた第一秘書とその日のスケジュールを確認する。休暇を取ったとはいえ、この仕事はもう10年も続けているから頭の中はすぐに仕事モードにシフトする。というか、するはずだった。
「あれ?」
無駄な事にその男は気がついた。
「香水、つけてる?」
淡いローズのほのかな香り。彼女は思わず顔をしかめ
「キツかったですか?」
不安そうに呟いた。
「いや、そうじゃなく」
神内優馬(じんないゆうま)は少し困った様に顔を赤らめた。
「いや、凄く似合ってる」
その照れた様な仕草で鼻の頭を書く左手に
「あっ」
今度は星羅が気づく番だった。
「指輪」
それは完全な失言で。
「そう、やっと離婚が成立したからさ」
晴れやかな顔で笑いながら彼は彼女の耳元で囁いた。
「後で詳しく話すよ」
 
 車は国産の高級車。月に一度の完璧なメンテナンスを受け、流れる様に高速を走る。
「本日六時からのセレモニーにお父様もいらっしゃると先ほど連絡が有りました」
星羅は社長とその秘書が交わす極秘の会話をいつも聞きながら車を運転する。そも女の身の上でお抱え運転手というのはかなり珍しい。それもそのはず。彼女の父親が前任者で、星羅はそれを受け継いだという訳だった。と言ってもその当時、父親とその頃の社長は
『結婚するまで、なに、30くらいまで勤勉に努めてくれればそれでいい。何より身近にいる人間は信頼できる人間じゃないといけないからな』
笑いながらそう話したものだった。この仲良し二人組、今ではすっかり引退し、鎌倉で釣りをしながら暮らしていた。もちろん、32歳になっても彼女が仕事を続けるとは思いもよらなかったのだが。今では父親も
『まぁ良い。星羅は会社と結婚したと思えばいいか』
と完全に開き直り、
『最後まで勤め上げろよ』
彼女のがっしりとした肩を叩いた。挙げ句に元社長は
『星羅君は我が社に永久就職だな』
と織部・息子が社長就任時に語っていた。
 その二人がどうやらやって来るらしい。昨日彼女がもらった父からのメールでその事は薄々気がついていた。でも言わない。彼女は社長に話しかけられない限り口をきく事は無い。だって彼女の仕事は車を安全に確実に運転する事だから。
「所で君さ」
目的地のホテルのエントランスで車を降りながら織部はいきなり彼女に話しかけて来た。
「その香り、似合わないからやめた方が良い」
一瞬何を言われたのか分からずぽかんとする彼女に、社長は皮肉そうな表情を浮かべとどめの一言を刺した。
「それは若い女の子がつける香りだよ」
「あっ!」
彼女は顔を真っ赤にしながら立ちすくんだ。彼は自分が何を言ったのかまるで頓着などしない仕草で彼女に背を向ける。当然それを神内は聞いている。だから思わず
「それは言い過ぎです」
会社では誠実をモットーにしている彼は社長を引き止めた。
「彼女に失礼ですよ」
もちろんフォローもする
「社長たる人間は他人に弱みを見せてはいけません」
弱みとは、
“無意識に他人を攻撃してしまう事”
“失態”
織部は軽いため息の後、
「その香りは君に合わないと言っただけだよ。君にはもっと相応しい香りが有るはずだと思ったからね」
作り笑いを浮かべ、
「済まなかった」
小さく頭を下げる仕草をした。
「私は……気にしていませんから」
僅かに肩をすくめ、彼女は車のドアを閉める。
「では後ほど」
と。

 香りを選んでくれたのは陽治(ようじ)今回バリ島に一緒に行ってくれた彼。
「たまには良いんじゃない? だってさぁ、こういうのでイメージトレーニングってのも有りでしょう?」
彼は見た感じ底抜け明るい。でも本当はとても繊細。
「可愛い香りをつけて、可愛い自分を演出しなくっちゃ! 今の自分から変わりたいって思ったら、何らかの実行に移すべき!」
そして連日エステに通い、バーでお酒を飲んで、派手なサンドレスに身を包んで毎日を過ごした。なにしろ南国。誰も知り合いはいない。慣れないメイクに時間をかけ、シェイバーでせっせとむだ毛を剃り、ミニスカもはいてみた。
「キレイじゃん、星羅!」
陽治は手を叩き喜んだ。その上
「僕の足もなかなかいけてるでしょう?」
ふざけながらショートパンツをたくし上げ、自分の足を彼女に見せ笑い転げる。大柄な彼女と小柄な彼。同じ位の身長で腕を組んで歩く。
「人の目なんか、気にしない!」
あの土地で、彼女はそう叫んでいた。でもこれが現実。高級ホテルのロビーラウンジ、一番隅の目立たない場所。そこで社長が帰ると知らせる神内からのメールを待つ。
「悔しいなぁ」
一杯1000円のほっそりとしたオレンジジュースのグラスを持て余しながら彼女は独り言を呟いた。織部の香りはペンハリガン。イギリスからお取り寄せの特別品。庶民の彼女が太刀打ちできるはずも無し。彼の周りにいる女性達だって同じ様なクラス。香水を買うにしろ、免税店ではなくショップで買うのが当たり前。

 織部が社長に就任したのは丁度一年前、七月。父親の心臓病が思わしくなく、その位置を引き継いだ形だった。もちろん大きな会社だから派閥も有るし、後継者争いも有った。しかし会長に当たる彼の祖父が健在でその後ろ盾は絶大。すると自然に彼に取り入ろうとするグループが派生する。当然独り身の彼が誰と結婚するかがいわゆるお偉いさんの一番の関心事になり。
「専務のいとこが今度秘書課に見習いで来るんですって」
「それって、そう言う事だよね」
女の子達は噂をする。なにしろ彼は雲の上の人、ある意味天女。自分達のリアルな恋愛の対象になり得るはずも無い。
「いっそ女優さんと結婚すれば良いのに」
本気でそう囁く声も聞こえた。そしてそれは当然星羅の耳にも入って来る。例えば社食でランチを取りながら
「早乙女さ〜ん」
15ミリの睫毛を持つ女の子達がやって来て、彼のゴシップを漁る。
「この前社長がポスター撮りでモデルの葵ちゃんと一緒にランチしたって聞いたけど、どこのお店か知ってる?」
カマかけられてる事位分かってるし、
「私は何も分からないですから」
本当は知っていても答えない。当然。それが面白くない彼女達は口々に囁く。
『ガンダムって、犬だよね。忠犬って感じ。ご主人様に呼ばれたら尻尾を振って走って行くんだわ、きっと。でね、彼女、自分が犬だって気がつかない馬鹿犬なのよ。自分を人間だって信じて、対等に扱ってもらえるって勘違いしてるの。もう最高。笑っちゃう』
当たらずとも遠からず。彼の綺麗な横顔に、バックシートでうたた寝する閉じられたまぶたに、そして飼い犬の柴次郎の話しをする時の瞳に彼女はうっとりとしそうになる自分を戒めていた。彼は社長で上司でお金持ち。上品で気高く我がまま。そして彼女より2歳も年下で。いつになく沈みがちで早めにお昼を切り上げた星羅に
「ちょっと話しが有る」
声をかけた男がいた。
 そこは小さな会議室。手にはゲランの紙袋。
「ご免ね、これは君にじゃなくて頼まれもの」
その袋を少し恥ずかしそうに隠す彼は星羅の元カレ。でも彼女と別れ幸せな結婚をし。
「6月30日に正式に離婚が成立したから」
神内は反対の手に持っていたカフェのコーヒーを手渡した。
「そう言う事」
何が
『そう言う事だよ』
って思いながら
「ありがとう」
星羅は無造作に受け取り、カップのふたを開ける。その鼻の奥をくすぐる甘い香りに、彼女の好みをまだ覚えている彼を忌々しいと思った。エスプレッソワンショット追加、ヘーゼルナッツシロップ入りのノンシュガー。そして何となく予感していた言葉を耳にした。
「俺たち、またつき合わない?」
冗談じゃない。心の中で悪態をつきながら、それでも大人になってぐっと堪える。
「考えさせて」
どうせまた浮気するんだって分かってて、あえてそれを苦いコーヒーで呑み込んだ。都合の良い女はこりごりだ。
「今は仕事に戻らないとね」



         
         後編に続く   

後編は明日アップできると思います。
なんせ成り行きで、行き当たりばったりで書き始めちゃいました。
奇妙な所はお許しを。

一応テーマは 七夕 です。

もちろんハッピーエンドさっ! 有ったり前じゃん♪

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クラップありがとうございます!

あ〜ちなみに私がお願いしたのは …… 秘密♪
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by hirose_na | 2009-07-07 18:31 | 恋愛小説