恋愛小説 クリスマスの悪夢 14  R15

14      クリスマスケーキ

 彼女のバイト先はケーキ屋さん。だから前日のシフトは頼み込んで午前中にしてもらい、その代わり25日の今日は
“ケーキが全て売れるまで”



居残り残業を約束し、寒い冬空で声を張り上げてた。
「これが最後になります。ぜひお求めを。」
なんて積み上がった箱に手を添えてみて、ため息が出そうになるのを必死になって笑顔で覆い隠した。本当は二人一組でやる仕事なのにもう一人の子は
『風邪気味なんですけど頑張ります。』
なんて言うから、暖かい室内を担当し彼女だけが外に残っていた。だから余計に独りぼっちが身に沁みて寒さが増してくる。すっかりクリスマスの気分から新年あけましておめでとうに気持ちがシフトしているのに売れる訳ないよ、そんな事を思いながら亜莉沙はこれも勉強かなって思った。今まで色々と甘えて来たからこれからは自分から苦労して嫌な事でもやらなきゃな、なんて。それにしてもよりによって今日の服装はこの日の為にサンタの格好。それもミニスカートにストッキング。有り得ない寒さに彼女はこっそりとポケットのカイロを探ったりして
“絶対早く売らなきゃ!”
って思った。その時ふと道向こうに見慣れた姿を見かけ
「こっち!」
彼女は大きく手を振った。
「こっち来てよ。」
やって来たのはロングコートに身を包んだいっちぃだった。
「メリークリスマス。」
ケンタウロスの中ではわだかまりは有るものの、この二人は結局10年来の
“幼馴染”
だった。
「よう、ミニスカサンタ。寒くないか?」
「よう、育ち過ぎ。寒いに決まってるさ。それよりこんな所で会うなんて奇遇。」
ここはあの時彼女が服を選んだ自宅から少し離れた大きな街だったから、こうして偶然二人が会うのも不思議と言えば不思議だった。
「こんな時間にデート?」
通り向こうの時計はもうすぐ9時を指している。彼の顔をのぞき込む彼女に
「ちょっと野暮用。」
肩をすくめにやっと笑ってみせた。
「何その顔。悪い事考えてない?」
「別に。」
そのくせ
「お前の母さんが今晩おこちゃまの帰りが遅くなりそうだって心配してたからついでに見に来てやった。」
なんて生意気な事を言い。
「それじゃぁさ、ケーキ、買ってってよ。」
彼女はぱちんと手をならした。
「これ売れたら私すぐ帰れるんだから。」
いっちぃは少し体をかがめ
「4500円なんて高けぇじゃん。」
値札を確かめた。
「でも美味しいよ、ここのケーキ。」
もちろん彼女も負けはしない。
「味は亜莉沙様のお墨付き。ここの苺のケーキは最高!」
「お前、あいかわらず苺ケーキ好きだな。昔っから俺の苺まで食おうとしていた位だもんな。」
苦笑いする彼に
「そんな事ないでしょう、いっちぃだって好きだったから絶対くれなかったじゃん。それよりこのケーキ、値段の分だけは有るよ。でも高いから売れないんだよね〜。う〜ん、という事で、違いの分かる人そこのお兄さん、買ってって。」
「駄目駄目。せいぜい買えても1個だし。まだ10個以上残ってんじゃん、これ。」
手を振りながら
「俺これから女の子と会う用事有るから荷物増やすの嫌なんだよね。その代わり売るの手伝うよ。こっちはタダだ。」
そんな調子のいい事を言って彼女の横に滑り込んだ。
「何それ。」
彼女は彼の肩をちょっと嫌そうに押し退けてみせ、口の端で笑った。なんだかんだ言って嬉しいかったから。流れていく人通り。ケーキの箱を持つ人はさすがに今日は少なく、いくら声をかけても誰も立ち止まらない。そんな人波がふと止んで
「なぁ、昨日は最後までいなかったな。」
さりげない口調で彼が言った。
「うん。」
彼女は営業用のスマイルを崩さない様に気をつけながら頷いた。
「無理だった。」
と。凍える指先を吐く息で温める彼女を見つめながら彼はひっそりとため息をついた。その姿があまりにも小さく見えたから彼はもう何も言えなかった。
「ところでさ。」
「ん?」
売れ残っているケーキを彼が顎でしゃくり
「ここのケーキ、本当に美味いの?」
こっそりと囁いた。
「あのね。」
彼女はそっと顎を持ち上げ、少し顔を下に向けているいっちぃの耳元で
「私以前、ここのケーキ、一番小さいホールのサイズだけど、1個全部食べれた事有るよ。そんだけ美味しい。」
「マジ?」
ちょっと驚く彼から亜莉沙がすっと体を離し、その視線は逸らされないままで僅かな対流が生じる。
「マジ。」
耳元から暖かい空気が去っていくのを感じながら彼は無性に寂しさを覚え、それを振り払う様に不意に姿勢を伸ばした。
「あっ、そこのおねぇさん。」
タイミングよく二人組の女性が歩いて来るのを捕まえ
「これからデート?」
軽いノリで声をかけ始める。
「え〜違うよ〜。」
ピンクの声に
「そっかぁ、キレイにしてるからデートかと思ったぁ。」
こいつは詐欺師になれるんじゃないかって口調で通りかかる女の子達にあっという間にホールのケーキを売りさばき、30分後には残りのケーキは1つだけになった。
「よし、ここまで来たらあと少し!」
妙に張り切る彼に
「いいや、私が買って帰る事にする。」
亜莉沙は小さくありがとうを言った。
「どうせあんたの事だから女の子待たせてても平気なんでしょうけどね、待たされる方はたまったもんじゃないからさ、もう良いよ、ありがとう。行って頂戴。じゃないと確実にフラれるよ?そんな事になっても私の所為じゃないからね。気持ちは嬉しかったけど、それって自業自得だぞ。」
最後の箱に手を伸ばし彼女はいっちぃに笑いかけた。
「マジサンキュー。それに私、まだクリスマスのお祝いしてないんだ。だから寂しいけどこれ持って帰ってお祝いするんだもんね〜。」
ろうそくを12本灯して豪華にしてやる、と息巻く彼女をいっちぃがからかう。
「それ、むしろ寂しい。」
ふざけている彼に亜莉沙はひと呼吸置いたあと
「かもね。」
しんみりと答え、ケーキを持ち上げたあと店に引き返そうとした。その手を
「いや、ちょっと待った!」
いっちぃがハシッと掴かみ、彼女の手の冷気が彼の掌に伝わる。
「やっぱ俺が買う。」
「いいよ、無理しないで。これだけ手伝ってもらえれば十分だし。」
軽く手を引き放そうとするけれど離れず。
「俺、欲しいってば。」
困った顔の彼がそう言った。
「駄々っ子みたいだよ。」
ケーキの箱を置いた彼女が呆れた声を出す。
「自分のもにのならないって、分かってから欲しがるなんて。」
「そうかもしれない、そうかもしれないけど。」
言葉に詰まりながら
「待たせてる彼女に持っていってやりたくなった。」
そう言った。
 その帰り道、彼女は再び彼の姿を見かける事になる。
「よう。」
まるで彼女を待っていた様な風情で彼は手を振った。
「何してんの、こんな所で。」
時間はもうすぐ10時半。彼の手にはケーキボックス。
「振られたの?」
首を傾げる彼女に、
「まぁ、な。」
いっちぃは彼女の横に並びゆっくりと歩き始めた。
「何それ。」
彼はジャケットについているふわふわのフェイクファーに顔を埋め妙に幸せそうな顔つきで首を傾げた亜莉沙に視線を走らせたあと、単刀直入に切り出した。
「あのさ、正直お前の事待ってたから。」
その声はいつになく真剣で彼女は思わず足を止めていた。
「はっ?」
この男は何を言い出すんだと思った。いっちぃは下唇を軽く噛んだあと
「なぁ、お前さ、俺の事ずっと好きだった、よな?」
とぎれとぎれにそう言った。
「あっ・・・・。」
思わず口元を押さえ
「知ってたんだぁ。」
亜莉沙はうつむいた。
「うん、知ってた。でさ、今でも俺の事が好きか聞きたいんだ。」
そんな彼女の頬にそっと手を当て、亜莉沙の答えも聞かないまま
「俺たちつき合おうぜ。」
きっぱりと口にした。
「今の俺、お前の事好きだから。」
彼はこの言葉を言うかどうかしばらく悩んでいて気がした。なにしろ幼馴染の彼女をついこの間までは女だと意識していなかったのだ。それなのに。駿に盗られたと分かったときからどうしようもない感情に責め苛まされ
“逃がした魚は大きかったかも”
そんな事ばかり考えていた。
“もしかしたら俺は彼女を好きかもしれない。”
そう思い出したら止まらず、幼い頃に二人で彼の部屋で一緒に遊んだ事だとか、遠い日の思い出が彼の胸の中に湧き上がり、今までつき合って来た女の子達の名前や顔は一致しなくても、彼女だけは特別なんだと気がついて。彼女が駿と別れた事を素直に喜んでいた。でもそんな自分がとてつもないゲス野郎に思えて今まで告白できずにいたのだった。しかし昨夜の亜莉沙を見て彼の中でも何かが吹っ切れたのだ。
「なぁ亜莉沙。」
彼の声は今まで彼女が聞いた中で一番甘い声だった。
「家に帰ってお前の親に挨拶してからで良いから、亜莉沙の事持ち帰らせろよ。それから俺の部屋で22年分のクリスマスのお祝いしない?二人でケーキ突ついて過ごしたいんだよ。お前の好きな苺の所は全部食べていいから一緒に食べよう。な、だから俺の所に来いよ。」         

  

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 * あとがき *

あれれれ〜。
最終話にならなかったぁ!!

本当にラストの予定だったのですが、
いや、いっちぃが、いっちぃが・・・・。

多分明日にはラストです、こんどこそ、はい。


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by hirose_na | 2008-12-28 22:52 | 恋愛小説