恋愛小説 クリスマスの悪夢 13 R15

13     『君が嫌い』


 がやがやと騒々しい楽屋裏の扉が開き5ヶ月ぶりに目にした彼らはどこか年老いて見え
「こんばんは。」
やっと絞り出した彼女の声は擦れていた。



「亜莉沙ちゃん連れて来たよ。」
荒川さんの声に全員が一斉に振り向き、彼女は覚悟をしていたもののその視線に突き刺す様な痛みを感じた。
「あっ・・・・来たんだ。」
和馬の呟きに亜莉沙はいたたまれなさを感じながら帽子を取りぺこりと頭を下げる。本当はもうここに来てはいけないって分かっていたから。本当はこっそりこの夜を見届けるつもりでいたのだから。
「お邪魔してご免なさい。」
なぜか不自然な沈黙のあと
「誰が呼んだんだよ。」
不機嫌な声が続く。
「俺。」
駈がよく通る声でみんなに告げた。
「誰も彼女の事呼んでいないんだろ?こんな夜なのに。」
目をそらしうつむく駿とため息。
「どうせ俺たちの
“腰抜けリーダー”
は今晩のライブの話しを元カノに教えてないんだろうなって思ってさ。」
たった一週間前の事だった。アルバイトをしている彼女の携帯にかかって来た1本の電話。それは駈からのもので
『今度のライブに来い。』
というものだった。彼女は駿と別れて二度とケンタウロスのいる場所へと近づく事はく、いっちぃとさえも疎遠になってしまっていてライブの情報にも耳を塞いでいたから。
「なんで今更私が見に行くの?」
もともと駈と彼女は特に仲が良かった訳じゃない。だからどうして彼から連絡が来たのか分からずに戸惑った。
「ほら、私、駿と別れちゃったから気まずくない?」
ごく当たり前の逃げを打ち
『それ気にしてるの、あんたと駿だけだから。』
彼にさらりとかわされる。
“言えてる。”
彼女はそう思った。きっと自分だけが勝手に盛り上がってしまっていただけで、彼らにとってはいつもの色恋沙汰と変わらない、そんな事なのだ。
『本当は俺が知らせる事じゃ無いと思ってるけど、多分誰も教えてないと思ったから伝えておく。その日のライブ、ケンタウロスの最後のライブになるから。』
それはいずれ来ると予期していた事では有ったけど。
「そうなんだぁ。」
実際に
“現実”
として目の前に突きつけられるとそれを信じるのは容易くはなくて。
「嘘みたいだ。」
言葉がぽろりとこぼれてしまう。
『仕方ない。いくら俺たちが夢中になって努力しても全員がプロになれる訳ないからな。まぁ詳しい事情はお前の元カレから聞きな。とりあえずメンバー全員就職なり進学なり将来は決まった事だし、お互いその方面で頑張っていく事になりそうだから、今まで応援してくれた人達にはきちんと挨拶しなきゃいけないってみんな考えている。』
「うん。」
『かだらお前も来い。』
強引な言い方が彼らしいと思った。でもだからといって駈は自分の信じた事を言う人間だと言う事は知っていて
「うん。」
彼女は頷いた。
『チケットは明日渡すから。でも悪いけど1枚しか渡せない。大事なものだから必ず来いよ。』
念を押され亜莉沙は軽く笑った。行きたくない気持ちを見透かされているなって。それでも自分の中で完全に
“終止符”
と分かる何かが欲しい事も確かだった。
 亜莉沙はケンタウロスの練習に参加しなくなってからめっきりと
“自分が寂しい女”
だと言う事に気がついていた。何もする事がない。せいぜい勉強して図書館通いして。それから長期の休みの時には近所の小学生相手のボランティアをする。そんな孤独な日々を過ごしながら
「何だか依存していた?」
そう気がついた。
“好き”
ただそれだけでいつでもケンタウロスと一緒で、その事だけが彼女を支えていた気がする。普通の学生の様に真剣にアルバイトをした事もなく世の中の事もほとんど知らず。
「こんなんだから
“頭でっかち”
って言われちゃうんだ。」
だからそれまでの人生を変えようと思った。誰の為でもなく自分の為におしゃれをし、友達のアドバイスをもらい、色々な人と積極的に関わろうとした。別に
“見返してやりたい”
という事ではなく
“ケンタウロスから自立する”
事で自分に自信が欲しかった。それでも彼女の中にはいつだってくすぶる気持ちが有って、思い切れない何かが残っていた。
 実のところそんな
“微妙に活気づいている駿の元カノ”
の噂は密やかにメンバーの耳にも入っていて、
「なんだよ、あいつ。」
そう心の中で思うヤツもいた。彼にとってはそれがまるで
“羽を伸ばしている”
かの様に見え、悔しくて、
「俺ばかりが馬鹿みてぇじゃん!」
振ったのが自分だって事を棚に上げ、駿は自分がピエロになった気分だった。それでも亜莉沙が他の誰かとつき合い始めたという話しを聞かない事にどこか安心を覚え、同時にあれから何も態度を変えないで接してくるいっちぃに心の中の動揺がばててしまうのがしゃくで何事も無い顔で過ごしていたつもりだった。
 亜莉沙が楽屋裏に来る事で急に雰囲気が変わった事に荒川さんははっと気がつきここに来て初めて二人の関係がどれほどシビアであったか思い当たり、抜かったなと思った。その空気を払うため
「あれ、髪切ったんだね。気がつかなかった。」
短くなった彼女の髪に話題を移し
「失恋したからだろ?」
なんて験治のセリフに空気がいっそう冷え込んだ。
「俺、少し早めにスタンバイしているわ。」
いきなり駿が腰を上げその場に別れを告げた。自然に全員が立ち上がり
『頑張ってね。』
そう言いたかったはずの彼女は言葉を飲み込んだ。彼は無言で彼女の脇を抜け、いっちぃは一瞬立ち止まり、
「後で。」
彼女にだけ聞こえる声でそう言った。それから最後に部屋を出ようとした駈は
「最後までいろよ。」
とぶっきらぼうに言った。思わず
「ありがとう、呼んでくれて。」
この悲しい空気と現実でも、彼女はケンタウロスの4年間と関深く関わって来た事には変わらない。その見納めのステージに呼んでくれたのだ。彼が何を考えていたかは別にして、ここはやはりありがたいと思った。
「まぁな。」
彼らの中で一番長身の駈が見下ろしながら
「なんだかんだいってあんたが俺たちの為に色々力を尽くしてくれてた事に俺は感謝しているし、他のみんなだって言い出せないけどそう思ってると思うよ。」
彼にしては優しい声で
「だから最後までいろよ。」
そう付け加えた。
 薄暗いステージに彼らが現れた瞬間、ライブハウスの中は一気に加熱した。女の子達の悲鳴にも似た叫び声と拍手。そのはずが
「え〜、皆さん。今晩は大切なお知らせがあります。」
リーダーの静かな声に波が引く様に静けさが訪れ
「今晩は俺たちケンタウロスを聞きに来てくれてありがとうございました。」
いつになく丁重な口調が響き渡り、彼は場内を見渡す。その視線が亜莉沙を捕らえたかと思うとふと逸れてゆき
「今晩が俺たちの最後のステージになります。今までの3年と半年。ありがとうございました。」
そう言った。静かな拍手の後、曲が始まる。曲の半分はオリジナル。残りの半分はコピー。それでも
“コピーバンド”
と言われない様に彼ら独特のアレンジでその空間を形作った。亜莉沙はそんな彼らを見て思う。
“なんだ、悪くなかったじゃん。”
なんて。彼らは魅力的で最高にイカしてて。結局こんな結果になってしまったと言っても、大学での4年間をこんな素敵なバンドと一緒に入れた事はやっぱり良かったんだってそう思えた。そのはずだった。彼らはラストの1曲まで突っ走ってさながら真夏の太陽の様。恍惚の時間が過ぎ、
「それでは最後の曲、いきます。」
ソロのギターが流れ出し
「これって・・・・。」
聞き覚えのあるメロディーライン。間違いなく彼が
『君が好き』
と歌ってくれていたあの曲だった。
「駿・・・・。」
もしかして、と彼女の心の中に希望が見えた気がした。でもそれは見事に打ち砕かれる事になる。
「君が嫌い♪」
彼ははっきりと歌い始めた。ステージの上、スポットライトを浴びながら。
「君が嫌い♪」
馴染みの音なのに彼はまるで真逆を歌たい。
「君の所為で白いもやに包まれた迷路に彷徨い込んだ気分」
になってしまったり、
「その一言が僕を駄目にする。」
と語られて。その啼きの曲に亜莉沙の存在に気がついた数人のファンがそっと彼女の方を盗み見た。
「もう良いよ。」
亜莉沙はうつむき唇を噛んだ。もう良い、と。ここまで嫌われてまで彼の前にいる事なんて出来ないから。ステージの上の彼は彼女と同じ様に泣き出したい瞳をしている事に彼女は気がつかず
「さようなら。」
心の中で手を振ってステージ終了を待たず彼女は店を出た。店の外は雪。ハラハラと降りてくる粉雪に
「聖夜なんか大嫌い。」
呟きながら駆け出していた。


      
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   * あとがき *

あっさりクリスマス過ぎちゃいました。
しかも昨日アップできませんでした。
結構苦しい!です、はい。
ここに来て周りりくどいお話しになってますね、あははは。
でも次、ラストになります。
がんばって書きましょう!


   
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by hirose_na | 2008-12-27 19:05 | 恋愛小説