恋愛小説 クリスマスの悪夢 12 R15

12    冷たい季節

 表面上何も変わらない日々が続いているかの様に見えた。しかしこの年の梅雨は例年より寒く長く、ケンタウロスの活動もプロデューサーの
『“泣き”が足りない。』
の一言で自信喪失、



というか、半ば諦めのムードが漂い練習にも今ひとつキレがなくみんなイライラしがちで
「駿、また音外してるし。」
一番音楽に情熱をかけてる駈は特に厳しく当たっていた。
「悪りぃ悪りぃ。」
駿はそう返事をするものの、だからといって音質が上がるという事も無く。
「やってらんね。」
立ち上がり駈はドラムスティックをしまい込んだ。
「こんなんじゃ練習しても上手くなるはず無いし、楽しくもない。俺、帰るわ。」
「おい、待てよ。」
和馬がそれを追おうとするものの駈は言い出した事をやめる性格ではなく。
「俺、別に暇でバンドしてるんじゃ無いから。時間は作ってんの。それに楽しいからやってるんで、楽しくなかったらやらんだろう?」
そんな彼の気持ちがわかるから、すたすたと歩き去る彼をもう誰も止めなかった。
「仕方ない。あいつ無しで行きますか?」
いっちぃはとぼけた口調でベースラインを弾き始めた。
「あいよ。」
それに和馬が従って。
「ドラム無しも有りっちゃぁ有りだよね。」
験治がその場を誤摩化す様に言った。亜莉沙はそんな彼らを悔しそうに見ていた。
 それでも駿の
“音感”
が戻る事は無くだらだらと時間が過ぎ、無駄に時間が過ぎていく。
 駿には考え続けていた事があった。あの時彼が聞いた言い訳は
『いっちぃに貸していた本を返してもらおうと待ち合わせ、彼が階段を滑って落ちて怪我をした。』
本の名前は
“資本論”
待ち合わせた場所は
“経済棟B3階”
時間は
“5時丁度”
『彼は見た目より怪我軽かったみたい。慌てて損しちゃった。』
電話越しに笑う彼女。その時は
『なんだ、そう言う事だったのかよ。』
で納得できた彼だった。しかしその次にいっちぃと会った時、彼は聞きもしない事をペラペラと話し出したのだ。それも
“資本論”
“経済棟B3F”
“ジャスト5時”
全てが合い過ぎていてふと疑問が湧き上がる、おかしい。第一普通に学食や図書館で受け渡しをすれば良い事じゃ無いか。どうしてわざわざ亜莉沙の学部より一番遠い経済学部まで行き、しかも3階で待ち合わせをするのだろう、と。そこに有る嘘の匂いを嗅ぎ取ってしまった彼だった。それでもその疑いを口に出来ない事も確かで。何しろ彼にも亜莉沙に言えない秘密が有ったから。今更バレてもたいした事ではないと言えばそれまでだけれど。彼の初めての相手はあの貴璃子で、恋愛感情無しに女を抱けるって教えてくれたのが彼女だった事だとか諸々の事を。だから相手にとって知らない方が良いと言う事も有るのかもしれない、そう彼は自分に思い込ませようとした。
「どうしたの、駿。またため息ついたよ。」
一緒に歩いていて不安そうな彼女の瞳が見上げた。
「何でも無いよ。ほらアレだ。最近雨が続いているからブルーなんだよね。」
亜莉沙はそれをバンドが上手くいっていない所為だと勘違いした。二人で1つの傘の中。お互い分かっている様で分かっていない。その日は雷が鳴っていた。
 亜莉沙は彼が醸し出す微妙な距離感にすこしづつ気がつき始めていた。何がいけなかったんだろう、ふとした瞬間そう考えてしまう。彼女は彼とつき合う様になってから努めて
“何も変えない”
様にして来たつもりだった。可愛い振りをしたり、気の利いた振りをしたり。今更そんなの似合わないと言う気持ちも有り、同時に
「駿って私のどこが良かったんだろう・・・・。」
そんな迷いもあったから。もしたまたま平凡な女に興味が有ってそそられたのだとしたなら、飽きてしまえばそれまでで、彼とつき合っていて感じる何とも言えない不安感が和らぐ気もした。それでもここに来てやはり
「もう少し美人だったら良かったのに。」
ふと寂しくなる事が有った。それは風呂場で鏡と向き合った瞬間沸き立つ疑問。
「魅力、無いよなぁ。」
と。ぺたんとした胸元に細いだけの腰回り。顔も至って平凡で。その時思い出すのはあの時の罵る元カノ達の声。
『あんたみたいなつまんない女、どこが良いって言うの?』
『いい加減にしたら?見苦しいから。』
『超不細工だし。』
それに反抗する気持ちを駆り立てていたのは彼を愛しているという気持ちよりも
“自分はこんな最低な人間じゃない。それだけはマシだって胸を張れる”
そんな思いだった。もしかしたら彼が
『好き』
と言ってくれたのは自分のそんな部分、よくは言えないけど、
“マシな人間”
な部分なのかもと胸をよぎる。どうせ真面目であるというスタンスは彼女の中で変える事の出来ない事だから。だからこのままで。貴璃子に選んでもらった服も新しい髪型も気に入っているけど、だからといって彼に媚びる様な事はしちゃいけない、そう思って鏡から目をそらしていた。
 そんなある日の事。彼はいつもの様にスタジオに入ろうとし足を止めていた。少し開いたドアとそこから漏れる囁き声は確かに彼女といっちぃのものだった。
「怪我、もう痛まないの?」
気づかわし気な声。それは駿の前ではあえて彼女が現さないいたわりの声。
「まぁな。それより俺の親なんか
『亜莉沙ちゃんと関わりがあるってんだったら、彼女に責任とらせて結婚してもらいましょうか。』
だってよ。」
「何それ。」
いっちぃの奇妙な声マネを彼女が笑い
「『うちの一騎を傷物にした。』
って?」
彼の親をからかう。
「そうそう。」
駿はそのまま動けずにいた。
「それにしても、良い経験させてもらいました。」
「またそんな事言って。」
くすくすと笑う声。
「そうだよ。きっと亜莉沙とだったからできた経験ってヤツだよ。実はあん時俺、色々思う事が有ってさ、わざと使ってた包帯実際の怪我に使うサイズよりでかいの使ったてたんだよ。知ってた?」
「女の罪悪感誘ってる。」
「そうそう。」
言葉尻から何について話しているかはよく分っているつもりの駿だった。
「でもさ、ゴメン亜莉沙。」
「いや、何、今更。」
「ほら俺が口止めしたから駿に秘密作っちゃったじゃん?」
彼は声をひそめた。
「うん。」
併せて彼女の声も小さくなり。
「ホントは彼に全部ぶちまけたかったりったりしない?」
「だって、起こっちゃった事はしかたないし。彼の所為じゃない事だから、駿に下手に教えたら絶対彼傷つと思う。それだったら二人だけの秘密にしておいたほうが良いよ。そうに決まってる。」
「あ〜あ、女って汚たねっ。」
分かってた。立ち聞きは卑怯だと。今自分が持っている感情は見苦しくって、それでもあの二人にぶつける事も出来ずにいて。問いただせば済むと分かっていてそれを彼がする事は出来なかった。駿はわざと足をならし二人に
“人が近づいている”
と警告を出しながらドアを開けた。
「よう。」
その時に3人はいつもと同じ様な評定を取り繕っていた。
 その夜、駿は例のプロデューサーから電話をもらっていた。
『見送らせてもらう。』
ただそれだけ。
「どこが悪い?」
そこだけは知りたくて携帯を抱え詰め寄ると
『この前も言ったけど。』
電話越しの声が一瞬つまり
『ハッピーすぎて何かが足りないんだよ。曲にも歌詞にも、もちろん奏でている君たちにも。
“上手”
なだけじゃ足りないんだよね〜。』
そこまで。それでも彼は真面目にケンタウロスの事を評価しようとした
“良い”
プロデューサーだという事を彼も理解しているつもりだった。しかし
「畜生!」
彼は切れた電話に向かって怒鳴っていた。彼が憎いとかそう言う事じゃ無く、この上手く歯車の回っていない状況に苛立を覚え。
「畜生。」
もう一度それを繰り返す。実力だと言う事は分かっていたはずだった。自分達が天才じゃないって事も知っている。それでも
「苦労してない訳じゃないんだよ。悩んでいない訳じゃないんだよ。」
彼は行き場の無い気持ちを持て余していた。だから。
“デビュー見送り残念会”
の帰り道、彼は亜莉沙に向かって
「なぁ。」
胸の中に溜まっていた気持ちを吐き出していた。
「亜莉沙さ、俺の事本当に好き?俺ばっかり好きだって、そればっかりだよ。」
問われ
『好きに決まっている。』
そうすぐに返す自信が彼女には無く
「好きよ。」
やんわりと答え握っていた手を軽く引いた。それでも彼はその手をするりと離し
「俺、お前の言葉信じられなくてさ。」
うつむいていたはずの視線をすっと戻し
「亜莉沙さ、今でもいっちぃの事が好きなんじゃないの?」
二人の間で公に語った事の無い秘密を口にした。
 そう、それが真実だったから。
 彼女はずっと幼馴染の彼に恋をしていた。絶対叶わないと分かっていて諦めているつもりでも、彼に乞われてケンタウロスの雑用をしてくれと頼まれればしてしまうし、いっちぃにとって
“永遠に変わらない女友達”
の地位というものも悪くないと言い聞かせながらそこはなと無い優越感を持っていた事も確か。彼はそんな亜莉沙に気がついていたし、彼が告白したときのあの言葉尻で彼が知っているという事に亜莉沙も気がついていた。だから彼が初めての夜を待っていてくれたという事も。
「ご免なさい。」
彼にとってその言葉が全てを語っていた。
「でも・・・・。」
それから後を続けようとする彼女を遮ったのは駿だった。
「もう、良いよ。」
と。
「俺たち、別れよう。」
思わず口に出てしまった言葉。今まで何度も他の女性に言って来た言葉。彼の恋愛は今までずっとスマートだった事を亜莉沙は知っている。だから
「分かった。」
彼女にはそう答えるしかなかった。
「もう、終わりだね。」
冷めてしまった彼の気持ちを温め直す術は無いと彼女は心得ていた。


        
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  * あとがき *

アンチクリスマスな話しになってるよ!!
でもとりあえずあと2話でお終いの予定です。

所でここにきてぐっと廣瀬らしい話しで展開している気がしませんか?
私は書いていてそう感じています。

廣瀬の大好物 愛憎 修羅場 三角関係 もちろん
ハッピーエンド ♪

さて。彼女、どっちに転ぶと思います???? ふふふふふ ♪


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by hirose_na | 2008-12-25 18:01 | 恋愛小説