恋愛小説 クリスマスの悪夢 9 R15

9   君が好き

 結局ライブまでその
“ノリノリモード”
は持ち越され



「さぁ行こう。」
彼らは背中を叩き合いながらスタンバイした。会場には午前中の一件の
“噂の王子様”
を一目見たいと人だかりができ、彼らが中央ステージに上がった瞬間、お馴染みさんを含め沢山の女性の悲鳴の様な歓声が青空にこだました。
 奏でるのは三曲。さっきまではおちゃらけていた彼らだったけれど、舞台に上った瞬間はまるで違う。今回レーベルのプロデューサーが見に来てくれていると言う事だけではなく、自分たちの学生生活の節目でもあり、この日の為に頑張って来たと言う自負があった。自分達の為にも今まで応戦して来てくれた人の為にもやる時にはやらないといけない。口元は笑っていても目は真剣。奏でる3曲には渾身の注意を払った。そして最後。
「君が好き♪」
歌い出した駿は一瞬舞台の脇にいる亜莉沙に優しいまなざしをくれた。
「君が好き♪」
歌いながら。彼に言わせると、寝ても覚めても彼女の事ばかり。声の聞こえる方向を探し、彼女の一言で天国に昇るらしい。いつでも彼女の傍に居たくって、その空気を噛みしめたくて、並んで寄り添っていたいと。
そして最後、
“君が好き”

「亜莉沙が好き♪」
で締めくくった。場内は沸き立ち、声援が飛び交う。
「やったね〜。」
ステージを降りたケンタウロス達は満面の笑みだった。確かに駿のアドリブは想定外だったけれど、それでも未だかつて無い仕上がり。もちろん音はノーミスで満足のいく仕上がりだった。
「どうだった?」
駿は自信を持って一直線に亜莉沙の元に駆け寄った。うっすらと汗のひかる髪をかきあげ光を受けるその姿に小さな声で
「恥ずかしかったよ。」
彼女は答え赤くなった。それは彼の気持ちがダイレクトに彼女に伝わった、という反応で。
「へへっ。良かった。」
駿はほどいたままの彼女の髪をくしゃくしゃっと揺らした。
 もちろん、そんな様子を見ていた誰かが
「何あの子。」
「いい気になってない?」
「鼻につくんですけど。」
「和馬の幼馴染なんだって。」
「超優等生らしいよ。」
「だからメンバーのリポート手伝っているんだって。」
「なんだ、コッパじゃん。」
「だよね〜。」
「じゃなきゃね〜。」
「カワイソ。」
そんな事を話していただなんて気づきはしなかった。

 次の週末はケンタウロスの活動も無く至って穏やか。土曜の朝9時、亜莉沙の家の近くの公園脇には1世代前のクラウンが滑る様に横付けされ
「待たせた?」
駿が身を乗り出し亜莉沙を呼んだ。
「ちっとも。」
彼女は首を振り、一瞬躊躇ったもののそのまま勧められた助手席に座った。彼は
「俺さ、基本電車派だから運転下手かも。ゴメン。先謝っとくわ。」
そう言いながらステアリングを握ぎる。車は近くに住む叔父から借りて来た。趣味が渋すぎてかなり恥ずかしいと言えば恥ずかしいが、亜莉沙だったら
“似合わない”
だとか
“古くさい”
だとかそんな事を気にしないと思えるから恥ずかしさは半減し
「高速乗るまでは静かにしているね。」
そんなセリフをさすがだなぁと思うのだった。
 二人がついたのは静かな湖畔のプチホテル。見上げる彼女が
「凄く可愛い。」
ちょっと不思議そうに首を傾げた。明らかに駿の趣味とは違う気がする薔薇のステンシルのウエルカムボード。
「まぁ、な。」
散々調べて女の子に評判の良いホテルをネットで探して予約したものだった。その口コミ情報を見ながらこれで結構女心ってヤツを知らなかったな〜だとか、亜莉沙だったらこういうのが喜びそうだよな、だとか考えてハマっていた。何しろ始めての御泊まり。そこらのホテルで軽く済ませようって思わせないのが亜莉沙マジックだな、なんて駿は微笑んだ。
「怪しい。」
彼女の片方の眉を上げる仕草に
「いや、違うって。」
誤解されたと思った彼は慌てて種明かしをする。
「せっかく亜莉沙と初めての夜過ごすんだから一生の思いでにしてあげたいじゃん。」
亜莉沙は本気で疑っていた訳ではなく、というかそんな彼の気持ちがわかっていたから
「うん。」
そう頷いて指の先でかりっと彼の手の甲を掻いた。
「ありがとう。」
今日の彼女はこの前貴璃子が選んだ服を着ていて、髪型は彼のリクエスト通りふわりと背中に垂らしている。薄化粧が彼女の透明感を引き出しまるで少女の様。そんな姿に
「すげぇ、キレイ。」
彼は彼女の耳にかかっていた髪を指先でそっと払いのけ耳たぶを甘く噛んだ。
「食べちゃいたい。」
これから後最低8時間は有るのかよ、なんて下世話な事を考えながら彼女を見下ろすと、うっすらと開いた唇が彼を誘っていて。
「俺の事狂わせて何したいの?」
なんて自分でも訳分からないセリフを言いながら彼女を抱きしめキスをしていた。
 チエックインにはまだまだ早いから二人で湖の周りをぶらぶらと散歩した。ベンチに腰をかけお昼ご飯も楽しんだ。以前から彼女の料理の腕は凄いとは思っていたものの
「マジ、美味い。」
彼は取り出された料理をキレイに平らげた。鶏肉のシソ巻きに胡瓜のたたき。約束の梅干しのおにぎりに、卵焼き。デザートは梅酒のゼリーで彼にとってこんなほっこりするデートは初めてだった。亜莉沙は
「良かった。」
彼に喜んでもらえたのが心から嬉しかった。
 そして夜の帳が降りる。夕食はレストラン開始の6時にきっちりと済ませ彼は急ぐ様に部屋へと向かった。
「焦り過ぎ。」
「うるさいなぁ。」
くすくすと笑う亜莉沙に駿は肩をすくめた。
「仕方ないだろう。」
開いたドア、閉められたドア、鍵のかかる音。覆い被さる様に降ってくるキス。彼の尖った舌先と吸い込む様な唇の動き。
「んっ・・・・」
息もつけないってこういう事なんだって亜莉沙は思った。両腕の下からまわされた彼の手は彼女の頭と腰をつかんではなさない。何が起こるか分かっているから逃げようなんて思いはしないけど。
「怖いよ。」
迫ってくる激しさに戸惑った。
「亜莉沙。」
彼がほんの少し体を放し額だけを合わせながら
「亜莉沙がこう言う風にさせてるんじゃん。責任とってよ。」
都合のいい事を呟く。そしてキス。
「俺、亜莉沙に溺れてるから。亜莉沙の事、めちゃくちゃにしそう。」
繰り返されるキス。でも先ほどの狂った様な口づけは緩やかになりをひそめ、彼は小さく息を吐き出すとその手を緩め彼女の髪を優しく撫でた。
「お風呂、入っておいでよ。その間に俺、落ち着いてるからさ。」
彼の声は怒ってなんかいなくって
「うん。」
大切にされているって思った。
 駿のベッドは優しかった。なんども繰り返される彼女の名前と愛の囁き。彼は完全に夢中で、それでいて亜莉沙を気遣いながら先を急いだ。その夜は早く眠りについたせいか二人とも明け方5時には目が覚めて、彼は恥ずかしそうに目を伏せる彼女を見つめながら
「痛くしたね。」
なんて今更の様に昨夜の事を謝る。
「ん。」
亜莉沙は
『痛かったけど良かったよ。』
なんて事は言えなくてシーツを握りしめながら横向きの彼の胸元に潜り込み、同時に
「あっ。」
彼女は彼の変化に気がついてしまい、声なんか出すんじゃなかったって少し後悔した。
「だからさ。」
にやにや笑いの彼がシーツごと彼女を取り込み上半身を起こした。
「亜莉沙がこうさせるんだから。」
それから朝の光の差し込む中を
「恥ずかしい。」
なんて逃げそうになる亜莉沙を捕まえ
「駄目。」
愛してるよと繰り返した。
「もう亜莉沙、俺の物だからね。しっかり目を開けてお前の事見てたいんだよ。」
全身に光を受けながら
「亜莉沙も俺の事だけ見ていて欲しい。」
彼の筋肉のついた細い躯が揺れ
「全部俺が教えてあげる。」
「じゃぁ。」
彼の綺麗な躯を見上げながら思わず
「教えて。」
擦れた声で彼女が言うから。
「教え込んであげる。」
小さな笑い声がチェックアウトは12だからと彼女の耳元に吹き込み、二人は甘い時間を過ごし、この幸せはいつまでも続くと思った。


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* あとがき *

この話し、ある意味コメディ化していません?
もう、完全にシェイクスピアの影響です。

「すげぇ、キレイ。」「食べちゃいたい。」
「俺の事狂わせて何したいの?」
「亜莉沙がこう言う風にさせてるんじゃん。責任とってよ。」
「俺、亜莉沙に溺れてるから。亜莉沙の事、めちゃくちゃにしそう。」

一度書いてみたかったんだ、これが ♪
でも普通じゃ書けない、まず言えないセリフ。
かなりこっ恥ずかしい!!
彼が作詞作曲する人間で良かったよ。
(勝利だったら書いてあるセリフを読めって言われても大根だろうな・・・・。
 いやなに、独り言♪)

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by hirose_na | 2008-12-22 19:04 | 恋愛小説