恋愛小説 クリスマスの悪夢 7 R15

7   ビフォアー・アフター

 がやがやとうるさい部屋で
「あの、ご免なさい。」
みのりを一緒に連れた亜莉沙はケンタウロスのメンバーを目の前に申し訳なさそうに話しを始めた。



彼女の服装はあいかわらずぱっとしない。
「24日の事だけど・・・・。」
それは学祭当日の事。
「みんなの手伝い、出来なくなっちゃった。」
確かに彼女の声は大きくなかった。それでも
「へっ?」
メンバーに与えたショックはそれなりに大きく
「今なんておっしゃったぁ?」
いっちいが耳に手を当て
「はぁ?」
ってな顔をする。
「だから。」
亜莉沙は気まずい声で、でもきっぱりと。
「悪いけど、手伝えない。」
「理由は、何?」
駈がぐっと眉根を寄せた。何しろ彼女は信頼の置ける雑用係だから。一番大切な日に傍に居て欲しいのはただの血眼グルーピーじゃなく、彼女の様に誠実なファンであり仲間だった。そして今回はケンタウロスがデビューできるかもしれないせっかくのチャンス。
「その日さ、この前俺たちに声かけてくれたプロヂューサーの人も見にくるって話し、知ってるよね。」
つい2週間前の事だった。
『君たち、面白いね。』
なんてライブハウスで声をかけて来たテンガロンハットはマイナーなレーベルの名刺を彼らに渡し
『この次のイベントの時、呼んでよ。』
と手を振った。
『同僚つれて見に行くから。』
それが学祭だった。彼らは切にデビューしたいと願っていた。バンドは星の数ほどあって、
「こいつら俺たちより上手いよ。」
ってグループも幾つも知っている。それでもやはり夢は叶えたいもの。チャンスはつかめる時につかまないといけない。留年した和馬を除けば全員が4回生。進学なり就職なり進路を迷い、後は無い。きっと一生のうちで今つかまないと二度と訪れない幸運だった。
「ご免なさい。悪いとは思う、けど、私にも私の都合があるから。」
それは確かにその通りだった。というより今までケンタウロスのメンバーが亜莉沙が断らない事を良い事に色々と雑用ばかりを押し付けていたと言う事実もあって、彼らはさすがに何も言えなくなってしまった。お互い顔を見合わせる中
「あ〜、リーダー。」
和馬は駿に話しかけた。
「リーダー君は知ってた?」
「いや。」
彼はすぐに誤摩化した。
「知らない。」
気まずい沈黙が流れ全員がため息をつく。亜莉沙はそれを打ち消す様に
「あっ、でも午前中だけだから。その代わり、みのりが手伝ってくれるって。」
頑張って笑いながら彼女をみんなに紹介した。
「ほら、みのりは去年の学祭の時、私と一緒に手伝ってくれたでしょう?だから大丈夫。全部話してあるし。」
「そっかぁ。」
和馬が寂しそうな声を出しながら頷いた。
「仕方ないか。」
午前中のビラ配りや人寄せだったらその子でも力になってもらえるとそんな期待を少し持ち。そのくせ
「じゃぁさ、手伝えないのは24日の午前中だけなんだよね。23日は大丈夫なんだよね」
駈がもう一度尋ねて来た。
「うん。」
目を泳がせながら、それでも亜莉沙ははっきり答えた。
「24日の午前中だけ。ライブ本番の2時には体空いてるから雑用にまわれるし、23日はまるっと大丈夫。」
つまり学祭初日は手伝えると。
「まっ、仕方ないか。」
ちぇっといっちぃが舌打ちをし
「その代わり働けよ〜。」
とふざけてから
「じゃ、そう言う事でみのりちゃん、仲良くしようね〜。」
なんて言いながら彼女の肩に手をかけた。空気が和み
「いっちぃ、彼女彼氏持ちだからちょっかい出さない。」
亜莉沙は彼の手をばしっと叩いた。
 そして学祭当日。
「あたしって晴れ女。」
亜莉沙は思わず呟いていた。そして待ち合わせの校門前、
「遅い!」
と叫ばれ
「まだ時間前です。」
そう切り返す。
「さすが駿の彼女。言う事言うね。」
やって来た貴璃子はにやりと笑った。
 その人はあの土曜日の日、亜莉沙から駿を引き剥がした女性だ。彼女はタウン誌の編集者だと名乗った。
「専門はファッション。街で可愛い子見つけたら写真撮ったり、新しいショップができたらリサーチするの。」
それでもって
「私は駿の“初恋の人”だから。」
そう含みのある物言いをして
「こいつ私に逆らえないんだよ、ね〜?」
と笑い
「だから荷物持ち兼ナンパ係に雇ってんの。」
確かの傍らには機材とおぼしき道具が合って。彼女は亜莉沙が落としたファッション誌を拾い上げ
「服選びに来たの?」
頷く彼女に貴璃子は含みのある笑いを見せた。
「私に任せて。」
と。
「その代わり私にもつき合ってよね。」
その
“つき合ってよ”
が学祭に当たってしまったのだった。義理堅い亜莉沙はどうしてもと言われそれを断りきれなかった。何しろ駿にまで
「ゴメン、頼む。」
なんて言われたから。実のところ彼は貴璃子に弱みを握られていたからそれをばらされたくはなかったのだ。
 当日亜莉沙が連れ出されたのは学祭で盛り上がる大学の中央広場ステージ前。大勢の人だかりとマイク。
「女の子は絶対きれいになれるからね。」
本日もハイパービューテーに決めまくった貴璃子が魅力たっぷりに学生達に話しかける。彼女はトークショーのゲストだったから。そして亜莉沙はその
“小道具”
「どんなに野暮ったいと思われても、はい、この通り。」
ビフォアー・アフター。いつもの亜莉沙が貴璃子の手によって作り替えられる。ほどかれた長い髪には緩めのウエーブ、真っ白いほっぺにはピンクのチーク。マスカラはブルー。アイボリーのパフスリーブのトップスは胸元が大きく開いていて、それでも彼女の持つ清々しさでちっともいやらしさが無くむしろ繊細で。カプリ丈のロールアップジーンズも、ビンクのクロッグも手に持つ麦わらのバックも、全てが彼女に合っていた。
「凄い!」
野暮臭かった彼女が見る見るうちに変わって行く。その姿にショーを見に来ていた女の子達が驚きの声を上げる。
「めちゃキュート。」
「可愛い。」
「超羨ましいかも。」
「さすが、プロって凄い。」
それから
「モトがこざっぱりしているから化粧映えしてるだけだよ。」
「体なんて貧相じゃない?」
なんて。明らかに嫉妬と分かる声も囁かれ。それほど彼女は可愛かった。まるでステージの上の妖精だ、バンドの練習を抜け出しこっそり見つめていた駿はそう思った。それは舞台の真正面、ステージを映しているカメラのまわっている台の上。もともと学祭の映像担当が彼の知り合いで頼み込んでそこから眺めていたのだった。そこに司会者が突っ込みを入れてくる。
「良かったですね、亜莉沙ちゃん。物凄く可愛くなったって皆さん声援送ってますよ。所で、彼氏います?」
何しろビフォアーな彼女があまりにも鈍臭く、彼氏がいるなんて思ってもいなかった司会の有坂は場を盛り上げようとしてそう聞いた。亜莉沙はとっさに
「いる訳無いじゃないですか〜。」
笑いながら答えた。正直が美徳なんて嘘だと思ったから。もちろんその返事を待っていた有坂はあろう事かくるっと観客に向きなおり
「という事で、彼女の彼氏になりたい人、手を挙げて!」
なんて大声を張り上げた。彼は将来芸能界に入って
“何かの司会をする”
のが夢だった。その為にもこの場を盛り上げステイタス築いておこうと必死だったのだ。彼の
“カモン!”
と手招きをする姿に沸き立つ会場。成り行き的に手が挙がる。まさかの展開に固まってしまった亜莉沙の耳元に、彼はマイクを遠ざけながら
「分かってるよね、ここ、盛り上げる所だから。彼氏ゲットだよ。」
そう囁いた。自己顕示欲の強い彼は他の誰もが全て同じ考え方をしていると思って疑わない。
「君、目立ってるから、頑張ろう!」
もちろん
「嫌。」
亜莉沙は彼だけに聞こえる様に答えた。冗談じゃない。
「駄目ってレベルじゃなくて、嫌。」
あまりにもきっぱりとした口調に有坂は一瞬驚き、その後意地の悪い笑いを口の端に浮かべた。すうっと息を吸い込む音。それから
「なんと亜莉沙ちゃん、彼氏になってくれる人には今日、この場で!キスのプレゼントをしてくれるそうですよ!」
会場全体に響く声。彼の手は馴れ馴れしく彼女の肩に絡み付こうとした。
「いや、ちょっとそれはまずいんじゃないの〜。」
貴璃子がフォローを入れようとマイクを握り有坂を止めに入るが時すでに遅し。
「ふざけな!」
怒りマックスな怒声が会場に轟いた。
「クソ有坂、馬鹿言うんじゃねぇ!!亜莉沙は俺の女だよ!!」
学園で一二を争う有名な男が吠えた。ステージを見下ろす高台の上。
「てめぇの薄汚い手、放しやがれ!!」
彼は脱兎の勢いで櫓(やぐら)を駆け下りステージの上に飛び上がると彼に一発
「ぎゃっ!!」
蹴りを入れ
「じゃ、そう言う事で。」
なんてかまして唖然とする亜莉沙、もとい会場全ての人達の前で彼女の頬にキスをすると、細い体を肩に持ち上げさらっていった。その後に残ったのは無惨にステージに這いつくばる有坂と
「きゃ〜〜〜!!」
という会場に集まっていた女の子達の叫び声。
 こうして亜莉沙が駿の今カノだという事が学内全体に知らされるハメになった。
「ゴメン。」
駿は彼女の手を引き人気の無い構内で謝った。
「あんな目立つ事してさ。」
「本当だよ。」
彼女はうつむいた。注目された事も恥ずかしかったけど、駿の彼女がこんなに冴えない女だってバレた事はもっとキツかったから。でもそんな彼女の気持ちに彼が気づくはずが無く。
「でもさ、これで俺たちおおっぴらに歩けるよ。」
本当にそれを信じて屈託なく笑った。


 

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ああっ、読んでくださっている方達が
『けらっ。』
って笑っている気がする・・・・。

さすがに廣瀬的にはキツくなって来てるかも・・・・。
でも頑張るさっ!



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by hirose_na | 2008-12-20 22:45 | 恋愛小説