恋愛小説 クリスマスの悪夢 6 R15

6    嘘つき

「それじゃぁさ、おねぇさん達仕事してんの?」
彼はある意味商売道具のその声を使って女性達に話しかけていた。



目の前の二人が鼻の先で
「くすくす。」
って笑い、そのくせいかにも彼を値踏みする様な目つきで睫毛をしばたかせる。
『面倒臭っ。』
彼は心の中で愚痴を言っていた。もちろん表面上は変わらず
“にやついて”
いたのだが、内心はそれとは正反対だった。本当は今頃亜莉沙と手をつなぎ、彼女に似合いそうな服を置いてある店をまわりながら、そのくせ彼女自身は選ばない様な服を手に取って
『絶対似合うから着て見せてよ。』
なんて話しをしているはずだった。それなのに。学生という身分は厄介なもので、しかも日頃バンドなんかやっている都合上、ろくにバイトも出来なくて。その埋め合わせでこんな風に休日に駆り出されてしまうのだった。
「せっかくだからその綺麗な所、写真に撮らせてくれない?」
なんて。調子のいいセリフを言う為に。
 亜莉沙はそんな彼の姿を
“見て見ぬ振り”
する事にした。例え目の前で年上のおねぇさんに話しかけているのが本当に彼だとして、それが一体なんだって言うのだろう。どうせ最初から無理のある二人だったから。彼は格好よくて、スタイルも良い。もちろん歌も上手でアイドルだ。釣り合わない。だから考えると惨めになってしまう。ぼんやりと取り上げたココアのカップ。
「あっ!」
それは思いのほか熱くって、彼女は唇に軽い火傷を負ってしまっていた。その唇を指先でなぞりながら彼女は初めてキスした日を思い出していた。
 それは夕暮れの話し。二人でCD屋さんに言ったその帰りの事だった。彼は亜莉沙の家の近くまで彼女を送り、二人並んでベンチに腰掛けながらブランコで遊ぶ子供達を眺めていた。
「俺たちもついこの間まであんなだったよな。」
なんて。
「俺さ、ジャングルジムが恐くって。」
そう話す彼に
「私なんかジャングルジムが大好きで、しょっちゅう落っこちてた。それでも懲りなかったけど。」
「マジかよ。お転婆?」
「マジ、ガキ大将?」
なんて二人で笑った。そして日が傾き、子供達は家へと向かう。
「じゃあそろそろ帰るね。」
立ち上がった彼女の後ろを彼がついて行き、彼女はふと振り向くと
「良かったら家寄ってく?7時までは誰もいないから気を使わなくてもいいし。」
何の気無しに言っていた。すると彼は肩をすくませポケットに両手を突っ込むと、
「止めとく。」
ぶっきらぼうにそう言った。
「我慢できなくなるからさ。」
ふと彼の目がけむり、亜莉沙は彼が何を言いたいのか分かったから
「ゴメン。」
それは彼女がまだまだ子供だという事を謝る。
「また、今度ね。」
小さくなりながらうつむく姿は、だからこそ愛おしいと駿に思わせていた。彼女と一緒にいると
“出すだけの関係”
は卒業して、少し大人になった気分になるのだ。
「俺って偉いでしょ?」
彼はふざけてそう言ってみる。彼女の睫毛がそっと持ち上がり
「ありがとう。」
その唇が揺れた。
「あっ、でも。」
次に彼がとったのは、二人とも予想していない行動だった。
「やっぱ我慢するの、ヤメ。」
駿の両手がいきなり亜莉沙を抱きしめ、
「やっぱ亜莉沙が好き。」
唖然と見上げる彼女に向かってゆっくりと彼の顔が近づき、ほんの少し右にずれるとその唇を彼女の唇に押し当てた。触れるだけのキス。でも彼の唇はちょっとだけ開いていて、その内側で彼女をそっと撫でる様に味わった。彼にとってこれは本能。
「はっ。」
って言う小さな声が彼女の唇から漏れ、駿は自分が何をしていたかに気がついて。
「あはは。」
誤摩化す様に笑っていた。
「何だかファーストキスの気分なんだけど。」
それは無我夢中っていう意味で。
「亜莉沙が好き。」
腕の中に彼女を抱え込みその香りを嗅いだ。
「君が好き。」
それから放してくれたのは、人のいない通りを歩く足音が聞こえたから。
「え〜あ〜その。」
彼は鼻の先をぽりぽりと掻いた。
「今度はもう少し濃いヤツをお願いします。」
照れながら手を振り彼は去って行った。
 そんな記憶を辿りながら彼女は寂しく微笑んだ。彼のいる方を見ない様に努力して、持って来ていたファッション誌をぱらぱらとめくり。時々時計の針を気にしながら丁度15分経った時、彼女はそっと外を見た。
「いない・・・・。」
ほっとした様な、それでいて悲しかった。服を買う気はもう無くなっているから
「今日はもう帰ろ。」
バックをつかみ立ち上がった。ココアは冷めていて、もう飲む気がしない。
 誰にも会いたくなくて彼女は小さな小道を選んだ。少し外れた駅から電車に乗った方が彼女の家には近いから。誰にも会わない、そう信じていた。そのはずなのに。
「きゃっ!」
路地の角を曲がったその時、前から歩いて来た男の人にぶつかってしまったのだ。
「あ、ゴメン。」
申し訳なさそうに謝る声が聞こえ、見上げたそこには
「駿・・・・」
そして彼の側にはこれ見よがしな位綺麗な女の人。
「あっ、亜莉沙・・・・。」
彼はさっと顔色を変えた。まさかここで出会うとは思っていなかったから。
「駿、誰彼女。知り合い?」
グロスのたっぷり乗ったオーバーリップとベビードールが揺れ、亜莉沙はとっさにぺこりとお辞儀をしていた。
「あっ、まぁ。」
うろたえる彼に
「ふ〜ん、だったら紹介してよ。」
彼女はニヤニヤと笑いながら駿の肩に手をかけた。
「あっ、亜莉沙は・・・。」
彼は言いよどみ
「ケンタウロスのメンバーっていうか、その。」
困った表情で横にいる女性の方をちらっと見た。
「ふ〜ん。」
切れ上がった目元が亜莉沙を値踏みする様に下から上へと上がって来て
「亜莉沙ちゃんかぁ。」
彼女はその形よく書かれた片方の眉を吊り上げてみせる。
「駿の追っかけ?」
「まぁ、そんな感じかな。」
そんな彼の言葉を亜莉沙はもう聞いている事もできず、いたたまれなく、明らかに年上な彼女の腕が駿の腕に絡まるのを横目で見ながら
「それじゃぁ、バンドの方、頑張ってくださいね。」
なんて言ってみて、もう一度頭を下げるとさっと背を向けて歩き出した。その後ろ姿に
「あ〜。」
その女性は聞こえる様に声をあげた。
「かっわいぃ。なんだか逃げちゃっね〜。」
なんて。それから何かを彼の耳元で囁いた。
 嫌い、嫌い。亜莉沙は彼を責めながらこの行き場の無い気持ちを膨らませていた。彼が何度も
「好き。」
を繰り返す様に、私も彼が好きなんだって。こんな風に分かるのも悔しいけれど、仕方が無いかもって思えた。どうせ自分は壁の花だから、と。ついさっき見かけた女性はまるで百貨店にいるビューティーアドバイザーみたいに綺麗な人。洗練されいて落ち着いていて、それでいて可愛くて。
「敵いません。」
今日無理しておしゃれをしようと街に出て来た事さえも虚しく感じていた。その時
「亜莉沙!」
強い力が彼女を引き止めた。
「誤解すんなよ!」
なんて。その勢いで彼女の手からバックが離れ路面にどさどさとファッション雑誌が散らばった。
『誤解も何も、そう言う事でしょう?』
今更の様に慌てふためく彼の姿に喉までその言葉がでかかった。
「俺が本当に好きなのは亜莉沙だけだから。」
急いで追いかけて来たらしい彼は息を切らしていた。
「嘘つき。」
思いもかけず彼女の目の奥から涙が湧き上がり、ぎゅっと堪えた目頭からそれはポロンと落ちた。
「亜莉沙。」
情けない、駿の中にはそんな気持ちでいっぱいだった。何で女の子泣かしちゃうんだろう。それもよりによって大好きな彼女の事を。
「嘘じゃないから。」
それが精一杯の言い訳。
「俺が愛してるの亜莉沙だけだから。頼む、信じてくれよ。」
表面だけの言葉が彼女を突き動かすはずも無く、亜莉沙は小さく首を振る。
「嫌、止めてよ、そんな事言うの。」
どうしようもなくて、彼は亜莉沙を抱きしめた。
「分かったよ。正直な所、話すから。」
本当はたいした話しじゃないのだ。ただ、心のどこかに秘密が有って言えなかっただけ。
「待っててくれる?」
駿は震える彼女を抱きしめため息をついた。
「今、全部教えるから。」
彼が口を開きかけた時
「これってそう言う事なんだぁ。」
彼の首筋をぐいっと引っ張る女性がいた。
「なによ、駿。結局そう言う事?この彼女が本命って訳?私も舐められたもんね。」
そこにいたのは
「はじめまして、亜莉沙ちゃん。私、貴璃子(きりこ)って言うの。」
貴璃子と名乗った女性はハイヒールで駿を蹴飛ばした。

 



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もう、ベタベタ ♪
ベタな展開〜〜 ♪

しかもキス1つで盛り上がってます♪

書いていてこっ恥ずかしいくらい ベタ!!
タイトルからして笑っちゃうでしょう?

『嘘つきっ!』
きゃ〜〜!!

まっ、いっかぁ。
クリスマスだしね〜 ♡



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by hirose_na | 2008-12-19 19:58 | 恋愛小説