恋愛小説 クリスマスの悪夢 4 R15

4   目撃者 K

 彼が耳にしたのは駿が奏でるギターの音ではなく、微かに聞こえる乱れた呼吸と繰り返されるキスの響き。
「何の練習っすか?」



ここでするなよな〜なんて軽い気持ちでからかう様に声をかけたつもりだったが、顔を上げた駿とおくれて振り返った亜梨沙の顔に
「マジ?」
和馬は目を見開いた。亜莉沙は急いで駿から離れようとうつむいて、そんな彼女を彼が引き止める。彼女の髪の毛がふわっと揺れ、その表情を駿の腕が宝物を隠すかの様に覆った。
「マジかよ。」
彼はその光景を信じられない思いで見つめていた。ついこの間までは無節操していた男と、真面目を絵に描いた様な女の子。
「駿、お前、遊びもたいがいにしろよ。」
彼は露骨にいやな顔をした。
「いくら何でも亜莉沙ちゃんに手を出すのはNGだろ。可哀相だろうが。」
彼が何を言おうとしているのか。気づかない亜莉沙じゃない。駿の腕の中で彼女の体が堅くなるから
「馬鹿な事言うんじゃねぇよ。」
彼は反射的に声を荒げていた。亜莉沙の誤解を招く様な事を言って欲しくなかった。
「何も知らねぇくせに。」
それは怒りに満ちていて
「何でてめぇが偉そうな事言うんだよ。」
吐き捨てる。
「勝手に決めつけるな!」
剣幕の激しさに亜莉沙がびくっと体を震わせるから、
「ゴメン。」
駿は声を落とした。
「亜莉沙に怒ってんじゃないから。こいつに怒ってんだから。」
「ったく。」
和馬はがしがしと頭をかきむしった。完全に当てつけられている気分だった。それにしても似合わないカップルだと思う。片方は派手にバンドのボーカルで、片方はある意味壁の花。リポートの提出にひぃひぃ言っている落第生と教授お気に入りの秘蔵っ子。キャンパスのメンズノンノに完全下っ端アシスタント。それでも、と和馬は小さくなっている亜莉沙をじっと見つめた。彼女はスタイルが悪い訳じゃない。けばけばしいとは逆の意味でキレイだから華が無い、ただそれだけが問題で。彼女の存在が今まで何度もケンタウロスの雰囲気を救ってくれた事も覚えている。何よりも駿の徹底したその態度が和馬に諦めのため息をつかせた。
「お前ら、他のメンバーには?」
駿は何もかもぶちまけたいってのが本音だったが
「言わない。」
亜莉沙の為に我慢をする。
「ほら、お前だってそう思っただろう?」
つまり、
“駿が亜莉沙を弄んでいる”
ってな思い込みの事。
「でもそんなんじゃねぇし。それに。」
彼は何となく気がかりだった事を口にした。
「俺とつき合うんでこいつに迷惑かけたら嫌だし。」
女の子達の事だった。自信過剰なあの連中は見せかけばかりで優劣を付けたがり、時として男でも思いつかない様な見苦しい嫉妬を発揮する。それをいい加減学習していた駿だったから、彼とつき合っている事がバレ亜莉沙に危害を加えられる事が心配だった。
「まぁ、なぁ。」
一理あるなと和馬は頷いた。
「でもさ、亜莉沙ちゃんは後悔してない?こいつとつき合って。」
その返事はむしろ駿が聞きたいくらいだった。
「うん。」
彼女の顎が微かに揺れ、
『していない。』
そう伝える仕草に駿の顔が思わずほころぶ。
「あ〜〜〜。」
和馬がため息をついた。
「やってらんねぇわ。」
と。まさかあの駿がここまでだらしない表情で堕ちるとは一度も考えた事が無かったのだ。だから
「亜莉沙ちゃんの事、傷つけんなよ。」
この時の和馬にはそう言うのが精一杯だった。
 それから数日後、亜莉沙と和馬は学食で出会った。何しろ二人は同じ学科に在籍をしていたのだ。
「ちょっと、いい?」
彼はそう言いながら有無を言わさない口調で亜莉沙を部屋の一番隅の席に誘導した。
「話し、あるから。」
そのくせだらだらと世間話で会話を濁し、目の前の山盛りの明太子スパゲティが延びる頃になってやっと肝心の言葉を口にした。
「ケンタウロスの中ではいちゃこくのは止めて欲しい。」
それは亜莉沙にしてみれば薄々釘刺されるだろうな、と思ってた事だった。
「ほらさ、俺たち女の子と遊ぶけど、バンドのクオリティに影響させるって事、誰にも許してないし。分からないかもしれないけど、それって暗黙の了解なんだよね。」
和馬は申し訳なさそうに、それでいてきっぱりと言い切った。
「亜莉沙ちゃん特別だから。ある意味メンバーの一人だって俺なんか思ってるから。でも、ごたごたを引き起こされたら、亜莉沙ちゃんの事切らない訳にいかなくなるし。」
「分かってる。」
亜莉沙は残り少なくなくなっていたカレーライスをかき集めた。
「私だってケンタウロスの邪魔したいなんて思ってないし。」
「でもさ。」
彼は心に引っかかっていた事を口にした。
「あいつ、亜莉沙ちゃんにぞっこんじゃん。そこが問題なんだよ。」
和馬の心の中にはあの時の駿の姿が焼き付いていた。そして初めて
『ああ、だからか』
と腑に落ちたのも確か。駿はこんな風に恋をして、だから音楽が変わったんだな、と。ヤツは亜莉沙に恋して変わったんだって。
「駿は今までの駿じゃない。何だかさ。」
言いよどみ
「亜莉沙ちゃんしか見えてねぇし。」
うつむいた。
「本当はこんな事、あいつに言うべきだって分かってる。熱くなり過ぎるなよって。のめり込み過ぎて周りが見えなくなるなよなって。でもあいつ、完全に亜莉沙ちゃんにイカれてるっぽいし、こういう時の駿って何言っても聞かないの分かってるし。だから、ゴメン。なんだかさ、俺の目には亜莉沙ちゃんの方が冷静っぽく見えるからさ。お願い、頼むよ。亜莉沙ちゃんがあいつの手綱握ってよ。」
和馬はちょこんと両手を合わせ彼女を拝むポーズをとった。ああ、ばててるのか。彼女はクッと下唇を噛み、おもむろに口を開いた。
「大丈夫、心配ないから。多分ね。」
それは自分への慰めでもあった。
「駿は恋に恋してるって感じかな?熱が過ぎると冷める、そんなもんでしょう?」
あっけないほどの彼女の反応に、和馬は少し胸が痛んだ。彼女は平らげた皿を手に持って
「大丈夫。」
を繰り返した。
「あのさぁ、亜莉沙ちゃん。」
彼は立ち上がった彼女を引き止め
「なに?」
振り返った顔を見上げながら言いずらそうに囁いた。
「ゴムだけはつけさせろよ。」
最初何を言われたのか分からずきょとんとしたものの、その意味が分かって彼女は真っ赤になった。
「んな事言い辛いけどさ、ほら、妊娠って事だけじゃなくて、その、色々病気とかさ、あるからさ。」
それは今まで駿が
“遊んで来た”
事の代償だった。
「ゴメン、本当にゴメン、こんな事言い出して。でも、俺さ、これで結構亜莉沙ちゃんの事、気にしてるから。」
彼はにかっと笑って誤摩化した。
「俺、いろんな意味で亜莉沙ちゃんに泣いて欲しくないって思ってるから。」
彼女はその言葉を
“ありがたい”
と思って受け止める事にした。何しろ彼の目は真剣だったから。
「うん、分かった。必ずそうするよ。」
だから
「いざってと気には
『和馬にそう言われたからお願いね。』
って、駿には言っちゃおうかな?」
ちょっとおどける様に言って
「マジかよ!」
彼の気持ちを和ませた。その本気で慌てふためく姿に
「嘘。」
彼女はさよならと手を振った。


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“ご都合主義”な“ありがち作戦”
分かります?
ある意味 王道! ですな。

でも最後のワンシーンは
「廣瀬だ〜〜〜」
って感じでしょう?


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by hirose_na | 2008-12-17 10:00 | 恋愛小説