恋愛小説 クリスマスの悪夢 2 R15

2   告白

 それ以来、駿は亜莉沙が一人でいる隙を狙っては
「ねぇ。」
そう優しい声で話しかける様になった。
「ねぇ。」
と。



彼の声は甘く、低音が少し擦れる。目は大きく少し垂れていて、高い身長に関わらずその表情は妙に幼く見えた。
「はい、何ですか?おねぇさんは今忙しいんです。」
彼女は無視する様にパンフを折ったり、ビラを整理したり雑用を続ける。
「ねぇ。」
それでも彼は食い下がった。
「アレからずっと考えてた。俺さ、亜莉沙ちゃんとだったら上手くいく気がする。」
と。そう、それまでは彼女の事を女としてさえ見ていなかった駿だった。それなのに、クリスマスの魔法なのか、あの夜以来彼にとって彼女はマリアになっていた。彼女が側に居れば心が安らぐし、何よりもありのままの自分を認めてもらえている気がした。そんな彼の気持ちを無視して
「馬鹿な事言わないでください。」
彼女はやり返す。
「世の中の女の子達がみんな泣くでしょう?私みたいなのが駿ちゃんの彼女になっちゃったら。」
彼はふふん、と鼻で笑う。分かっちゃいないって。そして同じやり取りを何度も繰り返した。人気の無い大学の片隅で。彼女が帰る駅のホームで。他のメンバーには見つからない様に。そっと。しかし彼女の態度は頑で、まるで彼を受け入れようとはしなかった。
「参ったな。」
駿は少しつず焦り始めていた。彼女を好きになって初めて気がついた事が沢山あり過ぎて戸惑い、その行き場のなさに足掻いていた。恋をする事がこんなに苦しい事だとは思いもよらなかったのだ。寝ても覚めても彼女の事ばかり。新曲を作ったと言って彼女にクレージーラブな歌を披露したらどんな顔をするだろう、とか。彼女の鼻先にくっついたコーヒーミルクを人前でキスでとったらどれほど驚くだろう、とか。あの三つ編みを解いてベッドに上に広げたらどんな感じだろう、とか、寝ぼけた瞳がゆっくりと目覚める様子はどんなだろう、とか。彼女が欲しくって想いは溜まり、かといって言いよってくる女の子達相手にそれを発散する気も起きなかった。練習やステージの合間に
「駿って最近変わった?」
バンドのメンバーがからかう。
「まぁな。」
とっかえひっかえだった女の子達は影を潜め、他の奴らからすればまるで
“孤独を楽しむ”
風情の様に見えた。彼の声は艶を増し、囁き声は甘く、
「色気増強中?」
それは誰の耳にも明らかだった。彼が歌うのは彼女のため。亜莉沙に気持ちが届く様に。彼女も彼の本気に気がついていた。ふざけて返すのもそろそろ限界かなって。それでもその気になれないのは、やっぱり不安だったから。自分の気持ちが揺れていた。彼とそう言う関係になってしまったら、何もかもが壊れてしまう気がした。ケンタウロスの他のメンバーとの関係や、バンドそのものの将来さえも。そう、彼らはこの半年の活動に賭けていた。いつかメジャーになりたい、そんな夢を全員が持っているって知ってたから。大学卒業までの1年間、きっと彼らにとって一生一度のチャンスだった。それを壊す訳にはいかない。それは彼らの為にも、自分の為にも。好きな人に、恨まれたくはなかった。
 そんなある日の午後、彼は春休みの構内の階段を一人で降りて来た亜莉沙をいきなり引き止めると、あっけにとられている彼女を踊り場の隅まで追い詰めた。彼女を好きになればなるほど、全ての事が見えてくる。亜莉沙の素肌が瑞々しくって滑らかな事、困った時に下唇を噛む癖、それから彼女の周りに渦巻いているその思惑。
「いい加減俺の事本気で考えてよ。」
もう待つ訳にはいかなかった。油断して彼女が他の男にとられるのをみすみす見逃す訳にはいかなくて。捕らえる様に壁に手をつき彼女を閉じ込めると
「君が好き。」
ありったけの気持ちを込めてそう言った。
「亜莉沙ちゃんの事、愛してる。」
3月の日差しは柔らかく、二人を光の輪の中で包んでいた。
「俺が嫌いだったらそう言って。だったら身を引くし。」
それは
“嫌いじゃない”
と確信していたから言えた言葉。微かに下唇を噛み答えに困る彼女をよそに彼は繰り返す。
「愛してるから。」
実のところ、これは彼が産まれて初めてする告白だった。今まで散々女の子とつき合って来ていて、ただの一度も
“愛している”
を言った事が無かったのだ。だからこそ彼の
“愛している”
は重かった。そしてその事を亜莉沙も気がついていた。彼は女の子に
『好きだよ。』
を繰り返す事は有っても、
『愛している。』
を言った事は無いんだって。
「ねぇ、亜莉沙ちゃん。最近俺の歌、変わったと思わない?」
彼はふと話題を変えた。
「あ、うん。」
誰もが気づいていた事だから
「変わったと思う。」
即答した。駿にしてみればその事を亜莉沙が意識していてくれた事が嬉しかった。
「理由、分かるよね?」
それは恋をしているから。
「でも。」
彼女は1つの武器を持ち出した。
「私、こんなだから駿ちゃんとは釣り合わないよ?」
と、彼は彼女の脇についていた手を外し、その指で彼女の三つ編みの端をそっと引っ張った。
「あっ。」
慌てて彼の手を押さえようとするものの、上手くいかず、むしろ暴れる事で彼女の髪の毛は波の様に散らばった。
「キレイじゃん?」
彼の両手がすっと亜莉沙の髪の毛の下に忍び込み、真っ直ぐに瞳を見下ろせる様に彼女の顔を持ち上げた。
「こんなにキレイなのにまだ足りないの?」
その唇がゆっくりと降りて来て彼女の耳元をかすめた。
「俺のものになって。そしたら俺、亜莉沙の最初で最後の男になってみせるから。」
あまりに露骨な言われ方に彼女はかっと頬を染めた。何しろ本当にバージンで、男なんか知らなくて、でも、それでも良いって生きて来てたから。
「君が好き。」
彼のありったけが囁く。
「君の真っ直ぐな所が好き。」
我に返って逃げようとする彼女を抱き止める。
「僕は君が思っている以上に君の事を知ってるんだよ。それでも。」
彼は言葉を切った。その含みに彼女ははっと顔を上げ目を見開いた。
「それでも君が欲しい。」
その意味を、彼女は駿の瞳の奥に読み取っていた。
「つき合って、ね?」
顔を背ける亜莉沙なのに彼はその腕に力を込め、そのくせ穏やかな手つきでその背中を撫でた。
「バンドの連中には内緒。俺たち二人だけの秘密だよ。」
だからもう潮時かもしれない。彼女の中で何かが変わり
「駿ちゃんがそれでも良いって言うなら・・・・。」
亜莉沙は小さく頷いた。



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それにしても、べたべたなセリフ言ってるでしょう?
この前見たシェイクスピアとかなたちゃんの欲望モードに
刺激されました。
シチュエーションさえなんとか誤摩化せば
この手のシーンもなんとか組み込めると発覚 ♪

がしがし、いきます!




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by hirose_na | 2008-12-15 12:56 | 恋愛小説