恋愛小説 ジンクス“7年目” 10

第十話   ランドリー

 私は洗濯機を回す。コンパに着ていく予定だった服は彼の所為でずぶ濡れ。
「嫌んなる。」



最短コースで30分。でも結局コンパは雨のために流れ、嫌んなる。もうこれから雨の日って大嫌いになりそうだ。
 アレから彼は新しいジーンズとトレーナーに着替え、髪を拭きながら奥の部屋へとやって来た。私もずいぶん濡れてたから風邪引くのも嫌だし、ソッコーでお仕事着の中では一番可愛く見える服に着替え椅子に座って待っていた。早く出て行ってってプレッシャーのつもりだった。彼は私のベッドの上にどっかと腰を下ろし、湿ったフェイスタオルをテーブルの上に置く。
「ありがとう。」
「どう致しまして。それより私、約束してるからもうすぐ行かないと。」
私たちの残り時間はあと15分。雨の所為で部屋は7月とは思えないほど冷えている気がした。
「友達との約束だから。」
彼は困った顔で口を開いた。
「俺、東京戻って来れるのに。」
それは地理的な距離じゃない。
「待つのには飽きた。そう言ったよね。」
だからだらだらつき合っていていい事なんか無い。
「嘘つき。」
彼は急に身体を起こし、厳しい口調で言った。
「奈保子はさっき言ったよ。俺が謝れば全て丸く収まるって。それなのに、何だよ。全然駄目じゃん。」
確かにそうかもしれない。でも、そんな、コレは子供の喧嘩なんかじゃない。こっちはこっちで真剣だった。
「言葉のあやってもんが有るでしょう。それに佐々木君全然謝ってなんかいないし。」
痛い所をついてやった。彼はあって顔をして頭を掻いた。
「ゴメン。」
それからうつむいてしまった。今の
『ゴメン』
は、
“謝ってないのに謝ったフリをした”
事への
『ゴメン』
だった。それから後、彼が謝る事はしなくって。
 静かな部屋に雨の窓ガラスに叩き付ける音。遠く車が雨はじく音がして、こちこちと時計の秒針が刻まれていく。しばらく二人共黙りこくったまんまだった。
「どうすればいい。」
立ち上がったかの様に見えた彼は私の前まで来るとうずくまり私の膝の上に頭を乗せた。その両手は添えられてるみたいに私の腰にまわり、その手を温かいなって感じながら、今まで流されてきた事を必死になって思い出していた。
「どうすれば戻ってきてくれる?」
そう言われても困る。でかい声で
『愛しているから離れたくない。』
とか
『お前の事を好きだから、絶対に別れない。一緒になろう。』
そう言ってもらえれば、自分だって喜べるとは思う。でもその答えを彼に告げ、彼自身の口から聞いたとしてもそれがただの自己満足で、解決にはならないって知っていた。
 どうして欲しいかなんて。分かっているけどね。本当にそれが今の私の心に届くのかなんて、自分にだってわかりゃしない。
「ねぇ、佐々木君。いつだって私の方から気持ち打ち明けてて、肝心のあなたの本心が見えないからさ。こっちは想像するしか出来なくて、空回りして嫌気さしてんの。分かってくんない?」
すると疲れた表情の彼が首を持ち上げた。
「いつもそうだ。」
と。
「奈保子はいつも俺の事佐々木君って呼ぶんだよ。気づいているかい。」
それは当たり前の事だったけれど。
「俺が辛かったって言ったら、奈保子は笑うかい。君は気づいてないかもね。でも俺にはそれが怖かった。君が俺の全てを許してくれる反面、君は俺と大切な一線で距離を置いている。」
足下をすくわれた気がした。
 無意識に、確かに彼をずっと佐々木君って呼んでたから。
「本名知らない訳じゃない。隆敏だって分かってる。でも、ずっと佐々木君じゃない。」
不意に喉が渇いて机の上の紅茶を飲み干した。でもどうしてだろう、紅茶って飲めば飲むほど喉が渇く。舌さえも張り付きそう。
 それから彼は思いもしなかった事を言い出した。
「俺が浮気しているって気がついていて、それでも見ないフリ、したよね。」
それは1年前。鏡には映らない場所にあった小さな印。彼の質問に
“知らないよ”
って答えなきゃいけないとこなのに、焦ってたあたしは誤摩化せなかった。
「だって、それは・・・・。」
遠恋だから。問いつめたらもう終わりだって。男だもん、溜まるでしょう?だから佐々木君から言い出さない限り、気がつかない事にしようと思ったんだ。
「そんな奈保子が嫌いだ。」
諦めの滲んだ声だった。
「君が思っている以上に俺は奈保子が好きだった。」
その言葉が過去形になっている事に私は気がついていた。彼の中でたった今何かが変わった気がした。
「いつでも君の様子を伺っていた。奈保子が俺を好きだって言った時も、初めて君の事抱いた日も。君を初めて名前で呼んだ後、君がどう反応するのか、俺の事も名前で呼んでくれるのかなって期待してみたり。今だってそうだ。男らしく押し切れば良いって思うかもしれないけど、それだけじゃないんだ。君が大切だったから、君が許してくれる範囲以上に近づく事、出来ずにいたんだよ。俺は俺のやり方で君を愛して来たつもりだった。」
彼の心が私とは全く別の次元で冷えていた、その事に初めて気づかされた。どこかで携帯が振るえ、微妙な振動が部屋の空気をかき回していた。
 彼はゆっくり立ち上がって、多分呆然としていた私の顔を見下ろした。
「ありがとう。」
って。
「きっと君と俺の道は最初から違っていたんだね。」
 その日の雨は滝みたいに凄くって、かかって来た電話は
“合コン流れた”
だった。
「ふうっ。」
仕方ないや。廊下で手早く全脱ぎした後、丸めて洗濯機に突っ込んだ。それでもって、最速コーススタート。
 が〜が〜って洗濯機が回る音が、あたし達の関係と微妙に被ってた。キレイに洗濯してアイロンかけるんだなって。
   

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by hirose_na | 2008-12-10 21:52 | 恋愛小説